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分子生物学 ノーベル賞

なぜ「ハエの研究」はノーベル賞の常連なのか

ゼロからわかる遺伝子研究最前線
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今年(2017)、ノーベル医学・生理学賞に輝いた「概日周期を制御する分子機構の解明」とはいったいどんな研究なのか? 鍵を握ったのはまたしてもハエだったってどういうこと!? 受賞者の「孫弟子」にあたる粂和彦さん(名古屋市立大学教授)にわかりやすく解説してもらった。

「先生、大変です!」

「先生、大変です! ノーベル賞、めちゃ近い人たちです!」

翌日からの米国出張に備えて準備をしていると、研究室の学生が教授室に飛び込んできました。

「ハエの人です。先生にも取材があるんじゃないですか?」

びっくりして教授室を出て、学生たちと話していると、ほどなく、携帯電話に知り合いの新聞記者から、固定電話には別の記者から同時に電話がかかってきました。

先日、発表された2017年度のノーベル医学生理学賞は、米国ボストンにあるブランダイス大学のマイケル・ロスバッシュと、ジェフ・ホール、そして、ニューヨークのロックフェラー大学のマイケル・ヤングに決まりました。

ジェフ・ホール氏、マイケル・ロスバッシュ氏、マイケル・ヤング氏左からジェフ・ホール氏、マイケル・ロスバッシュ氏、マイケル・ヤング氏〔PHOTO〕courtesy of the Nobel Assembly at Sweden's Karolinska Institute

受賞理由は「概日周期を制御する分子機構の解明」……なにやら難しそうですが、概日周期とは約24時間のリズムのことで、そのしくみを科学的には概日周期生物時計、俗に「体内時計」と呼びます。その時計が分子レベルでどういうしくみになっているか明らかにしたということですね。

私はショウジョウバエを用いて体内時計と睡眠の研究を行っているので、まさに同じ分野ですし、3人とも個人的によく知っているので、非常に嬉しいノーベル賞でした。

なぜハエがノーベル賞の常連なのか

彼らはどんな研究をしたのか。歴史をひもといてご紹介しましょう。

 

昨年ノーベル賞を受賞した大隅良典先生のオートファジーは一般の方には難しかったようで、体内時計は身近で普通の人も興味を持つと思いますと、電話口の新聞記者は言いました。ただ、体内時計と言っても謎の解明に使われたのはショウジョウバエです。

え? 何でハエのなの? と思う方も多いのではないでしょうか。

実はショウジョウバエは、これまで、5組ものノーベル賞研究をもたらした、ノーベル賞常連のスーパー昆虫なのです。それに、みなさんが思い浮かべる大きくてブンブン飛んでくる黒や銀の奴らと違って、ショウジョウバエは、果物が好きで眼が赤い、1~2ミリの小さな可愛いハエです。

ショウジョウバエショウジョウバエ〔PHOTO〕著者撮影

では、なぜショウジョウバエがノーベル賞の「常連」になったのか? そこにはこんな理由があります。

メンデルの法則という言葉は聞いたことがある方も多いでしょう。19世紀半ばにメンデルはエンドウ豆を使った研究で、「遺伝」を科学的に初めて解析しました。

「遺伝」とは、子どもの性質が親に引き継がれることで、昔から知られていましたが、メンデルは遺伝が要素(形質と呼びます)ごとに別々に伝わることや、優性と劣性という違いがあることなどを記載したのです。肌の色はお父さんに似てるけど、顔つきはお母さんに似ているね、なんていう感じです。

そして1910年には米国のモーガンがハエを使って、たった一個の遺伝子の異常が赤い目を白く変えてしまうことを発見したのです。この発見で、ショウジョウバエは一気に遺伝学の世界の寵児になりました。

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