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メディア・マスコミ

凄惨な連続殺人事件が起き、マスコミはまた同じ過ちを犯すのか?

「正しさ」が過剰に強調される社会で…

具体的で詳細な報道が控えられるべき

関東の某市で、アパートの一室から9人の遺体が見つかり、そこに暮らしていた20代後半の男性が容疑者として逮捕された。

男はツイッターで、自殺を考えるにいたった人々の相談に乗っていたらしい。その容疑者が保持していたアカウントでは、自殺の方法についての具体的な指南などが行われていた。そこで相談していた人々の一部が、殺人の被害者になった。

このような凄惨な事件に、社会はどのように対応するべきだろうか。

事件の詳細を知りたいと思う人もいるだろう。例えば、私のような専門家を称する人間が、判明した多くの情報をもとに、容疑者や被害者、所属する組織や社会の病理を解説するようなことにも、一定のニーズがあるかもしれない。

しかしそれを本当の意味で必要としているのは、一部の特殊な社会的な責任を負っている人々に限定される。多くの人にとっては、具体的な内容まで知ることには、マイナスの面の方が大きい。

この事件については、具体的で詳細な内容の報道が控えられるべきだ。その根拠を以下に記す。

 

自殺や関連行動を誘発する危険性

近年、行動療法の考え方の有効性が、精神医療の臨床で存在感を増している。

「落ち着かない」「言うことをきかない」傾向の強い、ADHD(注意欠如多動性障害)の子どもなどの親に実施される「ペアレント・トレーニング」が、その例である。

このプログラムでは、子どもの中の、望ましい増えてほしい行動については積極的に認めて褒め、控えてほしい行動については可能な限り無視をすることが、親に伝えられる。

これは、人間にとって、周囲から「報酬」と感じられる応答を受ける行動は増加し、それが与えられない行動は減少していくという原理に基づいている。そして子どもにとって強い「報酬」として働くのが、親からの「注目」なのである。

悪循環に陥っている親子関係で往々にして観察されるのが、以下のような状況である。

子どもがおとなしくしている時には、特に親が子どもに関心を払うことはない。子どもが何らかの義務を忠実に果たしていても、当然のことと見なされる。

一方で、子どもが何か大人にとって困ったことをした場合には、厳しく叱られるような介入がなされる。

しかしこの場合には、叱られることが「注目を集める」ことという「報酬」として働いてしまい、「問題行動」が増加していくことがある。

したがって、このような状態を改善するためには、親が一貫して、望ましい行動を認め、そうでない行動を無視していくという介入を継続していくことが、有効となる。

他に、うつ状態などに対する「行動活性化療法」も、近年評価が高くなってきている治療についての考え方である。

精神的に不調な状態が続くと、以前に行っていた活動を控えてしまっていることが多い。その場合には、たとえ気分が優れない場合でも、敢えて行動していくことが、病状改善のブレークスルーとなることがある。

抑うつ的な人を行動に向かわせたい時の面接で用いられる手法に、「行動を実施する具体的な時間や場所、詳細な手順」などを、一緒に考えることがある。

漠然とした願望や理念に留まっている考えは行動に結び付きにくいが、実際に自分の体を動かしているイメージが作られるところまで行くと、それを実行に移すことへの抵抗は、とても低くなる。

ここまで書けば、自殺念慮が強く関与する事件の詳細に注目すること、その具体的な内容が広く報道されることを控えるべきであると主張する理由も、理解されると思う。

そのような報道がなされた場合、引き続く自殺やそれと関連した行動を誘発する危険性がある。

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