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企業・経営

クロマグロの「完全養殖」に成功した飼料メーカーの奮闘録

実現に30年かかった

日本の畜水産業を支える大手飼料メーカーを取材した。'14年に日本配合飼料と協同飼料が合併して生まれたフィード・ワンだ。「クロマグロの完全養殖」という快挙を成し遂げ、その飼料も開発。またロボットによる搾乳をサポートする配合飼料の販売など、環境問題、労働力の減少に対応する先進企業だ。三井物産出身で、「失敗する」とも言われた合併を大成功に導いた山内孝史社長(62歳)に話を聞いた。

フィード・ワンの山内孝史社長

「畜産大国」は夢物語で終わらない

【畜産大国】

「牛なんて庭先の草でも育つでしょ」と言う方もいらっしゃいますが、市場はよりおいしく安価な畜産物を求めるため、飼育には配合飼料が欠かせません。

とくに日本では、安価な輸入品に対し圧倒的な品質で対抗するため、乳牛・肉牛・豚・鶏・魚専用の配合飼料を与えるのは当然、飼育時期によっても飼料を細かく変えるほどです。

私が社長に就任するとき、飼料の需要は激減すると予測されていました。しかし、和牛ほど柔らかくておいしいお肉は海外になく、また生で食べられる鶏卵も海外にはほぼありません。配合飼料で育てられた日本の食材は訪日観光客や諸外国の富裕層から高い評価を得ているのです。

高品質な日本の食材が世界の食卓に並び、日本が畜産大国になる日も夢でなく、当社はそれを支える配合飼料メーカーでありたいと考えています。

 

【挑む】

当社は約30年かけ、缶詰で有名な極洋さんと協力して、激減していたクロマグロの完全養殖を実現しました。しかも、この事業を大きく進化させる飼料の完成も間近です。

クロマグロは6~8月の新月の夜に何百万個もの卵を産みますが、生き残るのはそのごく一部のため、完全養殖を始めても稚魚を海のいけすに出すまでの生存率は1%程度だったのです。

原因は、クロマグロは動いているものしかエサとして認識しないため、食いが悪いことでした。しかし当社の研究により、ホタテの内臓エキスを加えた飼料は積極的に食べてくれることがわかったのです。生存率が3~4倍に増えることが期待されています。

社長に就任した当初、この研究は利益を出せておらず、株主への説明責任を考えると止めた方がよいのではないか、と悩みました。それでも続けた理由は、企業として吸収できるリスクだったため。そしてそこに「夢」と「大義名分」があったからです。既に研究は「いかに味をよくするか」の段階に入っています。ご期待下さい。

組織は人の心で動く

【合併】

合併時に悩んだのは「いかに相乗効果を出すか」です。まず合併相手の協同飼料出身の会長と「私たちが一枚岩であることを見せましょう!」と相談し、一緒に全国の支店や顧客をまわりました。元は競合で体質も違うため、ともすれば派閥を生み、社内で対立が勃発することにもなりかねません。そこで「今後はすべてをフィード・ワンのために」と、一緒に話してまわったのです。

また匿名のアンケートをとったり、「車座」と称し、会議の後に現場の社員とお酒を酌み交わしたりしました。アンケートでは「次の社長は誰だ?」といった辛辣な言葉もありました。一方で「今後は工場をこうすべき」「営業としてシナジーを活かしたい」という前向きな意見が百出したのです。