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メディア・マスコミ

いまこそ、平成ニッポンのタブーを語ろう

森達也×武田砂鉄『FAKEな平成史』

映画監督の森達也氏が、これまでに公開してきたドキュメンタリー作品を題材に、日本のタブーについて鋭く切り込んだ『FAKEな平成史』。本書の発売を記念して10月19日、青山ブックセンターで行われた武田砂鉄さん(近著に『コンプレックス文化論』)とのトークイベントをここに公開する。

あの「炎上事件」の真相

武田: 今回は、森さんの新著『FAKEな平成史』の刊行記念対談ということで、まずは最近、しきりに問題視されるフェイクニュースをはじめとした、ネット上での「フェイク」について聞いていきたいと思います。

なぜならば、たびたび炎上を経験されてきた森さんが、先日、なかなか大規模の〝フェイク〟な炎上を経験されたと。安倍晋三首相が記事に対してFacebookで「いいね!」したこともある、彼の熱烈な支持層に愛されるまとめサイト「保守速報」で、森さんのインタビューを元にした記事が燃え盛ったという。読んでみましたが、いくつも不可解な点がありますね。

森: いきなりその話から入るのか(苦笑)。……えーと、これまでも炎上らしきものは何回もありましたが、今回は規模が大きかったですね。保守速報に記事が上がってしばらくは、金正恩、トランプ、安倍晋三などに関する記事をぶっちぎって、森達也についての記事がアクセス数トップ。リツイートは、最後に確認した時点で4000を越えたのかな。

武田: 4000RTということは、記事を拡散するツイート自体はおそらくウン十万人が目にしていることになりますね。

森: そんなに? 参ったな。

武田: ことの次第を簡単に説明すると、昨年の参院選の際に、森さんが雑誌「週刊プレイボーイ」のインタビューに答えた。この記事が「週刊プレイボーイ」のウェブ版に、雑誌発売とほぼ同じタイミングで掲載された。で、この記事掲載から一年経った今になって、保守速報がこれを取り上げました。しかも、タイトルを変えて。

「週刊プレイボーイ」のウェブに掲載された時のタイトルは「映画監督・森達也が新有権者へメッセージ『棄権していい。へたに投票しないでくれ』」だったのに、「保守速報」が付けたタイトルは「映画監督森達也 自民党に投票するバカは迷惑だから、投票にいかないでほしい」でした。

元々のタイトルもインタビュー内容を的確に拾い上げたタイトルとは言い難かったけれど、保守速報のタイトルでは、森達也が今回の選挙で自民党に投じようとしている人達を丸ごと侮辱したように伝わる。すると、森さんへのバッシングがコメント欄やツイッターに積もっていき……。

 

森: たぶんほとんどは僕よりも年下だと思うのだけど、なぜか「こいつ」とか「このバカ」と呼ばれます。「こいつは選民思想だ」とか「このバカ、大学をクビにしろ」とか。

最初は放っておこうと思ったのだけど、家族に危害を加えることを示唆したリプライも来たりしたので、自分のサイトで、そんな意図では話していない。元の記事を見れば分かるはずだ、と否定するメッセージを公開しました。まあでも、脊髄反射でリツイートしている人は読まないだろうな。

保守速報は、一応は公開された記事をソースにしているけれど、タイトルという看板を付け替え、刺激的な文言で、ネトウヨを煽ってアクセス数を稼いでいる。記事を読めばタイトルとはだいぶ違う内容だとわかるんだけども、もとの記事を読む人はほとんどいないんでしょうね。あらためて、ネットのリテラシーというものがいかに脆弱かということを、身をもって知りました。

武田: 実際に掲載されたインタビューを読むと、「バカ」だとか「迷惑」だなんて一言も言っていない。そもそも元記事に当たれば、インタビューは一年前のものだとすぐわかる。

でも、彼らは元記事を当たるという、ワンクリック、ツークリックをしてくれない。文句を言う時に、その対象が何を言っているかを通読するのは当然のことだと思いますが、これまで前提とされていた最低限のリテラシーを持ち合わせていない。

「週プレNEWS」に掲載された元の記事がこちら(http://wpb.shueisha.co.jp/2016/07/06/67558/

森: それにしても、僕にリプライを飛ばしてきた人たちは、どんな人たちなんだろう。多くの人がアイコンに日の丸を付けていたけど。一回きちんと、対面で、たとえば公開イベントなどで話してみたいね。

武田: 昨年出版された『ネット炎上の研究』(田中辰雄、山口真一著)を読むと、炎上って世の大半が騒いでいるように見えるけれど、炎上参加経験者はネット利用者の0.5%だったという。限られた人たちが、常に新しいターゲットを探して燃え上がらせている。森さんのインタビューは、たまたまそこら辺に転がっていた焚き木にすぎません。

森さんは件のインタビューで、若者の投票をテーマにこんな話をしています。森さんが学生20人ほどに支持政党を聞くと、その9割ぐらいが自民党支持だった。しかし、憲法改正について聞くと、半分以上の学生が「憲法はこのままでいい」と答えました。そこがちぐはぐしているレベルなら投票に行かなくてもいい、これが森さんの意見でした。

森: 投票するならせめて、どの党が改憲でどの党が護憲なのかくらいは把握してから投票してくださいというのが本旨です。

武田: (対談が行われた投票日3日前の)現時点での衆議院選挙に向けた世論調査(朝日新聞)を見てみますと、比例で自民党に投票するとした人は34%。年齢別で見ると、18~29歳では41%が自民と答え、60代は27%。立憲民主党に投票するとした人は、60代が20%だったのに対して、18~29歳では6%です。若い世代の「このままでいいよ傾向」は興味深いテーマです。