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医療・健康・食

費用対効果が良すぎる「漬物」驚くべき効果

決して主役にはならないけれど…

もう漬物抜きでは語れない

日本人の民族食である和食の基本に「一汁一菜」というのがある。「一汁」とはご飯と味噌汁のこと、「菜」はおかずのことで御香香をさしている。つまり漬け物である。「一汁三菜」ということもあるが、これはご飯と味噌汁と漬け物と他に二つのおかず、という意味で、いずれにしても和食が成立するには漬け物抜きではありえないのである。

日本人はたいへん古い時代から漬け物を食べていた。すでに縄文時代には、蔬菜の皮を塩漬けした簡単なものがあったし、奈良時代の天平年間(729~749)の木簡には、瓜の塩漬けの記録が記されている。

また、平安時代の『延喜式』第三十九巻を見ても、なずな、蕨、芹、薊、いたどり、蕗など、春菜漬けが十四種。瓜、大根、茄子、茗荷など、秋菜漬けは三十五種(いずれも塩、味噌、醬油、酒粕などに漬け込んでいる)の記録が載っている。

その後、室町時代をへて江戸期に入ると、漬け物文化はいっきに全国へひろがっていく。そのことは、江戸時代に入ってから世に出された漬け物に関する文書が、おびただしいことでもわかる。

ざっと挙げても『合類日用料理抄』『本朝食鑑』『料理山海郷』『料理網目調味抄』『守貞漫稿』『四季漬物塩嘉言』『四方の硯』『大根料理秘伝抄』『萬聞書秘伝』『雍州府志』など、枚挙にいとまがないのである。

このように日本が長い歴史にはぐくまれた漬け物伝統国になった理由は、味噌、醬油、酒粕、米糠、麴など、変化にとんだ「漬け床」の材料が豊富だったことによる。加えて、漬け床に合った野菜が、じつに多種にわたって栽培されていたためである。

さて、日本の漬け物には、日本人の知恵がたくさん盛り込まれている。たとえば糠漬けにしても、糠はビタミンB群の宝庫だが、脚気や体力の衰え、疲労といった症状の原因であるビタミンB群の欠乏をこの漬け物で補っていた。これは米を搗いて出た副産物の糠から、漬け物の風味を高めるとともに、栄養素まで摂取しようとした経験的な生活の知恵である。

また、味噌や醬油もろみに野菜を漬けておきさえすれば、食べたいときにいつでも食べられる即席の便利さは、質素で、そのうえ食事に時間をかけたがらない日本人にぴったりの知恵であった。

 

知恵者の日本人はまた、自分たちの漬け物が、腸内で体によい働きをする微生物、とりわけ乳酸菌をその腸内で増やすのに大いに役立つものであることを、体験的に知っていた。野菜には、もともと乳酸菌がついているが、これを漬け物にすると、食塩に対して抵抗力の強い乳酸菌は、その漬け床で盛んに繁殖するのである。

ヒトがこれを食べると、漬け物から入った乳酸菌の一部は強酸環境にある胃をくぐり抜けて腸に達し、そこに棲みついて活発に増殖する。そのため腸内は、体によい乳酸菌で占められるようになり、腐敗菌や異常発酵菌などが腸内に侵入しても、その繁殖を抑えることができるのである。

そのうえ、有益な乳酸菌が腸内に多くなると、彼らはそこで多種のビタミンを生合成して分泌してくれるので、腸はこれを吸収し体の働きのために役立ててきたのである。ちょうどヨーグルトや乳酸菌の生菌入り発酵乳飲料を摂取した場合の作用と同じなのだ。