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なぜイシグロだったのか?

2017年のノーベル文学賞は、カズオ・イシグロが受賞した。だが、社会的な成果が明らかな物理学賞や生理学・医学賞などとは違って、文学賞に明確な受賞理由を問うのは意外と難しい。

もちろん文学は、その文学性ゆえに評価されるという、芸術至上主義は当然ありえる。だがそれにしても、なぜイシグロだったのだろう。

なにしろ去年はボブ・ディランだったのだ。文学の対象が音楽の歌詞にまで拡げられてしまった後の受賞である。なにかしら、今、この2017年に受賞する――選考する側からすれば授与する――理由があったのではないか。

そんな風に勘ぐりたくなってもおかしくはないだろう。

イシグロの作品は、しばしば「記憶」やそれに伴う「ノスタルジア」を扱う。

たとえば、最も新しい長編小説である『忘れられた巨人』では、円卓の騎士伝説で有名なアーサー王が活躍していたとされる頃のブリテンを舞台に、人びとの間で共有される記憶の維持・消去を巡る問題が取り上げられていた。一つの社会において、記憶が担う役割とは何か、を扱う物語だ。

イシグロはあるインタビューで、創作にあたっては、時空を超えた感情の共有=共感とそのための記憶、という主題を取り上げることを心がけていると答えていたことがある。それは、ブッカー賞を受賞した『日の名残り』でも、映画化され話題を呼んだ『わたしを離さないで』でも変わらない。もちろん、最新作の『忘れられた巨人』においてもだ。

忘れられた巨人、カズオ・イシグロ

この小説の原題は“The Buried Giant”、つまり「埋められた巨人」だ。

埋められることで忘れられる。あるいは、埋めることで忘れる。どちらでもよいが、記憶を扱う上で、地層を掘り起こすという表現は、それが考古学における発掘を連想させることから、有効な比喩になりうるのは確かだ。

この小説は、高齢の夫妻が徐々に曖昧になっていく記憶に疑問を感じ、その秘密を求めて住み慣れた村から出立するという場面から始まるが、記憶の思い違いや昔を偲ぶノスタルジアは、先進国がいずれも高齢化社会を迎えたことで、単なる物語では済まされないリアリティを持ち始めてもいる。

未来よりも過去に思いを馳せることで今を生きる。未来よりも過去――それがもしかしたら2017年の時代性なのかもしれない。

 

反動の時代

そのように考えてある程度納得できてしまうのは、イシグロの受賞と同じ頃に出版されたマーク・リラの『難破する精神』を見つけたからでもあった。

原書“The Shipwrecked Mind”は、昨秋(2016)、アメリカで出版された。大統領選が本格化する直前に、「難破する精神」として反動主義者の基本思想を紹介し、注目を集めた。日本では大統領選後の出版となったが、それだけにむしろ、2016年大統領選の顛末を理解する上で参考になる。

難破する精神

反動の思想ということから想像がつくように、この本の主題はノスタルジアである。つまり、ここでも「記憶」が主題だ。「記憶」とは、いわば反動の時代のキーワードであり賭金である。