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医療・健康・食 週刊現代

iPS細胞、ゲノム編集…「不死社会」は人間を幸せにするか

激変! 2028年のニッポン

永遠に生きることはできるのか――。誰もが一度は考えることが、近いうちに実現するかもしれない。不老長寿の達成には期待が高まるが、そのとき「生きる」こと自体への向き合い方が変わるはずだ。

老化そのものを止める

「不老不死」を夢見る人間は、古今東西あらゆる手を使って自らの寿命を延ばそうとし、時にはそれがアダとなって身を滅ぼすこともあった。

かつて無類の権力を握った古代中国・秦の始皇帝は不老不死を追い求め「不死の薬」を日夜服用していたが、この薬に含まれていたとされる水銀で中毒症状を起こし、49歳でこの世を去る。

その中国では現在でも「太歳」と呼ばれる菌類の一種が不老不死になる薬として、1㎏4万円程度で取り引きされている。いまだこの「太歳」を食べて長寿になったという話は聞かないが、藁をも掴む思いで購入する人が少なくないからこそ高価なのだろう。

この世に生を受けたものはいつか朽ち果てるという大前提を受け入れてきた我々にとって、運命に抗い不老不死を得ようとすることは、人類のあくなき欲望から生まれた「夢物語」とみなされてきた。

ところが2028年、「不死」の概念はいままでよりもはるかに身近なものになる。というのも、iPS細胞やゲノム編集といった医療技術の発展により、我々の寿命はいまよりもはるかに延びているからだ。

現在の日本人の平均寿命は約83歳だが、120歳、いやそれ以上生き続ける「不死」に近い社会の到来も絵空事ではない。

まず人類の運命を大きく変えるのは、京都大学・山中伸弥教授の研究で注目を浴びているiPS細胞だ。

iPS細胞は人間の体細胞に数種類の遺伝子を導入することで、筋肉から臓器、血液にいたるまであらゆる細胞に分化する能力を持ち、また自ら複製、成長することができる。

大阪大学大学院心臓血管外科教授の澤芳樹氏は、このiPS細胞の心疾患への応用について、次のように解説する。

「これまで重症の心不全の治療には、人工心臓に置き換えるか移植するかの2つしか選択肢がありませんでしたが、これらの治療法にはそれぞれリスクがあります。

一方、iPS細胞をどう使うかというと、身体の他の組織を心筋細胞に変えて、機能しなくなった部分に移植する。これが元気な細胞と同じように活動して症状が改善するのです。

本格的に実用化されれば、これまでの術式よりもはるかにリスクは低くなるでしょう」

このような夢の技術は、すでに動物実験の域を超え、実際の医療の現場への応用がはじまっている。

日本の再生医療研究の最前線であるCiRA(京都大学iPS細胞研究所)では、「再生医療用iPS細胞ストックプロジェクト」を'13年より開始している。

病気を発症している、もしくは発症する可能性がある人のiPS細胞を細胞バンクに登録し、世界の研究者がそれをもとに病気の治療法を研究する。原因を解明したところで、患者の身体に健康な細胞を戻すといったかたちだ。

病気の治療に役立てられるだけではない。iPS細胞を使い、老化そのものを食い止めるという驚きの研究も進んでいる。

'16年に医学誌の権威『セル』に掲載された米・ソーク研究所の発表によると、老化した細胞に記録された情報をリセットすることで、細胞が「若返る」という。

これが応用されれば、がんのように細胞が異常に分化することなく、細胞を若いままに保つことができるようになるという。

老化は止められる――。人類が長らく夢に見てきた技術が実現しようとしているのだ。