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残酷すぎるが言おう。9割の人は「成功の法則」をまちがえている

自己啓発を「科学」してわかること

過去の経験だけに頼るだけでは…

「主張にはエビデンス(証拠)がなければならない」という考え方は、1990年代に医療分野でまず普及した。

アメリカの病院の臨床結果を分析すると、医者によって治療効果にかなりのばらつきがあり、「名医」がかならずしも正しい診断をしているわけではないことがわかったのだ。

医療は日進月歩なのに、過去の経験だけをたのみにしていると、治る病気も悪化してしまうのだ。

このようにして、医療行為は医者が独断で行なうのではなく、なぜその治療法を選択したのか「根拠」を示さなければならなくなった。これがEBM(根拠に基づく医療 evidencebased medicine)だ。

次いでこの流れは教育分野へと波及した。小学生に算数を教えるのに複数の手法があったとして、どれを採用するかを学校ないしは教師が勝手に決めるのは生徒の権利を侵害している。

なぜなら、条件を揃えたうえでそれぞれの教授法を試してみれば、どれがもっとも優れているかを決めることができるからだ。だとすれば、すべての生徒が最良の教授法で算数を学べるようにすべきだろう。これをEBE(根拠に基づく教育 evidence-based education)という。

さらに欧米では、この考え方は政治にも適用されている。政府がある政策を実施する場合、国民の税金を投入するのだから、それ以上の投資効果があることを納税者に示さなければならない。

東京の外環道が100の投資に対し150のリターンがあるとするならば、納税者は道路の建設に同意するだろう。一方、地方の橋が100の投資に対し50のリターンしか期待できないなら、そこに税を投入することを(利害関係者以外)だれも認めないだろう。

これがEBPM(根拠に基づく政策形成 evidence-based policy making)」だ。

こうした「エビデンス・ベースド」はさまざまな分野で急速に広まっており、今後、その流れはますます大きな潮流になっていく。もちろん、「成功法則」も例外ではない。

とはいえ、ここで注意しなければならないのは、「根拠に基づく主張」がつねに正しいとはかぎらないことだ。

科学的にもっとも強力な証拠は、新薬の実験などで使われるRTC(ランダム化対照実験Randomized Controlled Trial)と二重盲検法の組み合わせだとされる。無作為に選んだ患者グループに新薬と偽薬(プラシーボ)を与え、どちらの薬なのか患者も医師もわからないようにしたうえで(二重盲検の条件で)効果を計測する。

なぜこのような面倒なことをするかというと、偽薬でも治療効果が出る場合がしばしばあるからだ(プラシーボ効果)。

 

認可された新薬には医療費として多額の税金が投入されるのだから、偽薬以上に高い治療効果があることが厳密に証明されなければならない。

二重盲検法が必要なのは、プラシーボ効果が患者の期待に強く影響されるからだ。「病は気から」というように、これで病気が治ると(無意識に)思い込むと免疫機能が活性化する。

患者の無意識は医者の微妙な表情まで読み取るので、薬を処方するときに医者が本物か偽物かを知っていると、どれほど上手に演技してもそれを見破ってしまうのだ。

社会心理学や行動経済学でもランダム化対照実験は頻繁に行なわれるが、二重盲検の条件を満たすのはかなり難しい。しかしさらに問題なのは、被験者に顕著な偏りがあり、ランダムになっていないことだ。

大学で心理実験を行なう場合、予算の関係で、被験者を学生から募るのがふつうだ。その結果、実験のサンプルは一部の有名大学の(それも心理学を専攻した)学生に集中する。

ところが近年になって、こうした学生は一般のアメリカ人と大きく異なる価値観をもっていることが指摘されるようになった。

彼らエリートの若者たちは、「欧米の(Western)」「啓蒙され(Educated)」「産業化された(Industrialized)」「裕福で(Rich)」「民主的な(Democratic)」文化のもとで暮らす特殊な階層で、その頭文字をとって「WEIRD(奇妙な)」と呼ばれる。

さまざまな研究で示された「アメリカ人(西洋人)の心理や行動の特徴」は、ふつうのひとたちからかけ離れた「WEIRD」なものかもしれないのだ。