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鉄道 週刊現代

痴漢、リニア、都市開発。「鉄道本」から見えてくるニッポンの姿

鉄道建設が持つエネルギーは良くも悪くも巨大である

リニア実現の難題

今回は「電車」をテーマに、異なる角度からの3冊を紹介してみたい。

品川―名古屋間を40分、新大阪までを67分で結ぶ予定になっている、JR東海が計画中のリニア中央新幹線(以下、リニア)。まずは2027年に品川―名古屋間が開通する予定だが、東京五輪を無事に終えた頃に鎮座する政府が「今度はリニアが日本経済を」と勇む姿が目に浮かんでしまう。

五輪から切り替わるように、鼻先にぶら下げられる人参と化すはずのリニアだが、気安く追いかけてはいけない。樫田秀樹『リニア新幹線が不可能な7つの理由』を読むと、この超巨大事業が複数の難題を放置したまま進んでいることが分かる。

トンネル掘削によって生じる東京ドーム約50杯分の残土は資源として活用する必要があるが、2割程度しか確定していない。確定した場所についても地元住民への説明は乏しく、生活道路に1日200台のダンプカーが走行する場所も生じる。

地下直線走行で断ち切られるのが地下水脈。開通のために設けられている実験線の段階でも、住民たちの水源だった沢がいくつも涸れている。しかし、住民の不安をよそに「破砕帯等の周辺の一部においては、地下水の推移への影響の可能性はあるものと考えられる」などと曖昧な内容を提示するのみ。

 

地上部分では約5000人の地権者が家屋や田畑などを収用されてしまう。電磁波の発生や体内への影響についても、丁寧な調査がなされていない。

そして何より、リニアは新幹線の3倍以上の電力を使う。3・11以降、「電力不足」というフレーズが原発再稼働への言い分になっているが、リニア事業は率先して忘却の見本になろうとしている。

'16年6月には、安倍首相が「リニアや整備新幹線などに財政投融資を活用する」と表明、その額なんと3兆円。住民運動の代表者は「『自己資金でやる』との前提で進めてきた手続きをすべて無にするもの」と憤る。

リニアが開通すれば、新幹線の売り上げは落ちるので、その売り上げがそのまま上乗せされるわけではない。リニアを通す最たる理由は、オレたちがやりたいからやる、やることに決まってるからやる、でしかないように思える。超巨大事業に脅かされる住民たちの声をつぶしてはならない。

斉藤章佳『男が痴漢になる理由』は、私たちの多くが頭に用意している「痴漢像」をひっくり返す。短いスカートを穿いている女性にも非があったのではないか、といった愚鈍な指摘を「痴漢の“リアル”とズレています」と断じる著者。

「裁判でも女性の性遍歴や性産業への従事を理由に、加害男性の罪が軽くなる」事例が相次いできたが、そういう人はもっとうまく拒否できたはずでしょう、との声が平然と流れてしまう。AVが作り上げてきた「痴漢像」を改めないからこうなるのだ。

その気になる女もいる、という浅はかな知識が染み渡っている。加害者になる男=モテない男が性欲を暴発させた、とのイメージも強いが、これも大きな間違い。多くの男性は痴漢行為中に勃起しておらず、必ずしも性的解消を目的としているわけではない。そのトリガー(引き金)として並ぶのは「営業成績」「決算」「上司」など、仕事上のストレスが多いのだ。