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格差・貧困 ライフ

都心の一等地で「実家暮らしリア充女子」の意外な憂鬱

A子ちゃんとB美ちゃんの複雑な感情⑨

元日本経済新聞記者にして元AV女優の作家・鈴木涼美さんが、現代社会を生きる女性たちのありとあらゆる対立構造を、「Aサイド」「Bサイド」の前後編で浮き彫りにしていく本連載。今回は、第5試合「出身地」対決のAサイド。

今回のヒロインは、都心の実家暮らしの外資系ホテル勤務の女性。みんなに羨ましがられてきたけど、人知れぬ苦労も?

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麻布十番から徒歩圏内

「大学時代に、地方出身の同級生とか若干なめてて、田舎者ってほどじゃないけど、違う環境で育ったんだろうなと思ってたけどね。八戸から出てきてる女の子がいて、その子からすると、それまで丸ビルもヒルズもカシータも久兵衛も全部観光地じゃん。分かり合えない」

麻布十番商店街から徒歩圏内の実家で育った彼女は、当然四谷にある大学に進学後も、外資系ホテルに就職後も両親や姉と同居を続け、一度だけ結婚を考えた彼の家で同棲の真似事をしたものの、2年経たずにして破局、また実家に戻り、28歳の時に初めて自分自身で契約して賃貸マンションに移り住んだのだが、最近になってまた姉が結婚し、父が他界して母だけになった麻布の家に戻ったのだと言っていた。

 

ホテルの広報の仕事は順調で、特別なイベントがなければ土日は休める。昇格して月給も上がり、生まれてこのかたほとんど家賃や引っ越し代を負担したことがない彼女の貯金は4桁に届く勢いで、長期の休みは気軽に国外に出て、条件の良い独身生活を楽しんでいる。

彼女の自宅は古い集合住宅だが、すぐ隣のマンションは1LDKの間取りでも家賃17万円。そう考えればほぼ同じ条件を無料で享受できる彼女の境遇は恵まれている。たとえ上司より年収が100万円低くても、彼女の生活レベルは彼らの上をいくことになる。

私立の女子校に通った高校生時代には、千葉や埼玉から通う生徒たちに羨ましがられたし、自分でもそれなりにその境遇は気に入っていた。10代の時に麻布周辺の公共交通網が整い、地下鉄の駅が近くなったことでさらに利便性は増した。

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彼女のその環境に感謝したピークは大学生の頃だった。学校から遠い近いの差こそあれ、全員が首都圏の親元から通う高校とは代わり、大学生は大きく親から自立して暮らす者と、実家から通う者に分かれる。生まれた家がよほど経済的に豊かでない限り、自立している学生は慎ましく暮らすか、あるいはお水や風俗などのバイトをして派手に暮らすかのどちらかを選ばざるを得ない。

麻布の実家に暮らして、ヘアカタログを作る出版社でバイトをしていた彼女は、親からも十分に交通費や教材費などを与えられていたため、かなり余裕のある生活だった。

もちろん、彼女のように実家が十分に通学圏内にあっても好き好んで一人暮らしをしている者もいて、彼ら彼女らもまた「いざとなったら実家に帰れる」安心感と、そもそも好き好んで独立する余裕が見える気楽さがあった。彼女の仲が良かった「一人暮らしの友人」というのはだいたいその類で、稀に授業やサークルで地方出身の学生と話す機会を得ても、結局それほど親しい仲にはならなかった。