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お蔵入り寸前だった『アナ雪』を救った、たったひとつの工夫

これが「アイデア・ブローカー」だ
チャールズ・デュヒッグ, 鈴木晶

偶然のひと言

会議室に集まった全員が、今から1年半以内に完成させなければいけないということを知っていた。プロデューサーのピーター・デル・ヴェッチョは全員に目を閉じるように言った。

「ぼくたちはいろんなことを試してみた。まだ答えが見つからないが、それはしょうがない。どんな映画だってスムーズにはできない。失敗は成功の基だ。これからはまずい点をあげつらうのではなく、どうすればうまくいくかを考えよう。もっと大きな夢を思い描いてほしい。もしなんでもできるとしたら、きみたちはどんな映画が観たい?」

数分間、会議室は静まりかえっていた。やがてみんなは目を開け、自分はこのプロジェクトのどこが好きなのかを語り始めた。何人かは、映画における少女の描かれ方を逆転させる好機会だと思った、と発言した。姉妹が和解するというテーマに惹かれたという者もいた。

リーが発言した。「子どもの頃、よく姉と喧嘩したわ」。

彼女の両親はリーが小さい頃に離婚し、彼女は結局マンハッタンに移り住み、姉はニューヨーク州北部で高校教師になった。リーが20代前半の頃、ボーイフレンドがボートの事故で溺死した。姉は、妹の精神状態を深く理解して、必要なときにはすぐ来てくれた。

「あのとき初めて、きょうだいを、自分の反映ではなく、人間として見るようになった。この台本でいちばん気に入らないのはそこ。ふたりの姉妹がいて、一方が悪者で一方が英雄なんて、まったく現実的じゃない。現実にはそんなことはありえない。姉妹が別々に育つのは、一方が善で他方が悪だからじゃない。

どちらも自分のことで頭が一杯だから別々に育つのよ。おたがいを必要としているんだと悟ったとき、和解する。私はそれを表現したい」

それから1ヵ月間、『アナ雪』チームはアナとエルサの関係に集中した。チームの誰もが、姉妹の関係を解き明かすため、自分自身の経験を振り返ってみた。デル・ヴェッチョは著者にこう語った。

「自分にとって何がいちばん実感があるか、それを自分に問うてみれば、正しい物語が見つかる。自分自身の体験、自分の頭の中にあるものを素材として使うことを忘れてしまうと、行き詰まってしまうものだ。ディズニーのやり方が素晴らしいのはそこだ。自分自身をスクリーン上にのせるまで深く深く掘り下げるんだ」

誰もがアイディア・ブローカーになれる

ディズニーのクリエイターたちは自分自身の感情を用いてアニメの登場人物たちの台詞を書き、現実的な感情を非現実的で空想的な世界に溶け込ませる。この方法は検討に値する。誰もがアイディア・ブローカーになれる方法を示唆しているからだ。

その方法とは、自分の人生を創造の素材として用いることだ。私たちは誰しも、創造の材料として自分自身の人生を振り返るという自然な本能をもっている。だが、ある状況で得られた洞察を別の状況へと移し替える、つまり現実と決まり切った型とを区別することができるようになるために最も重要なことは、私たちが事物に対してどう感じるのかにもっと注目することだ。

アップルの共同創立者スティーブ・ジョブズは1996年にこう語っている。

「創造性というのはたんに物と物を結びつけることだ。創造的な人に向かって、どうやって創造したのかと尋ねても、明確な答えは得られないだろう。彼らはそんなふうにしてやったのではなく、ただ何かを見ただけなのだ。彼らにとってはごく自然なことなのだ。

なぜなら彼らは自分の経験を結び合わせて新しい物を作りあげる能力に恵まれている。どうやってその能力を身につけたかといえば、彼らは普通の人たちよりも多くの経験をし、その経験について普通よりも深く考えてきたからだ」。

いいかえれば、自分が物に対してどう反応し、どう感じるかに注目する術を身につけさえすれば、誰もが独創的なブローカーになれる。

ディズニー・アニメーションの社長エド・キャットマルは著者にこう語った。

「創造性をどう考えるかという点で、ほとんどの人は視野が狭すぎる。そこで私たちは膨大な時間を費やしてみんなに発破をかけ、自分自身の内部をもっと深く掘り下げ、奥のほうを見て、何か本当にリアルで、スクリーン上の登場人物にしゃべらせたら素晴らしく効果的な何かを発見させるよう、つとめている」

ストーリー・トラストとの会合から数ヵ月後、ソングライターのボビー・ロペスとクリステン・アンダーソン=ロペスの夫婦は、書かねばならない歌について頭を悩ませながら、ブルックリンのプロスペクト・パークを歩いていた。そのときクリステンが尋ねた。