メディア・マスコミ

ある漫画家が、新垣隆さんにどうしても聞いておきたかったこと

あの騒動から間もなく4年

聴覚障害者たちが置かれる現実を描き出し、第20回文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査委員会推薦作に選出されるなど各界から高く評価されたノンフィクション漫画『淋しいのはアンタだけじゃない』

今年9月に発売された第3巻をもって完結した本作では、作者の吉本浩二氏と担当編集者サクライ氏(小学館コミック編集局)が、2014年の「ゴーストライター騒動」で「全聾」という経歴にも疑惑の目が向けられた作曲家の佐村河内守氏にも取材し、同氏がメディア報道通りの「詐病者」だったのか、それとも本当に聴こえていないのかを多角的に考察していた。

そのうえで吉本氏たちは、佐村河内氏名義で発表されてきた曲の「本当の作者」にして、彼の詐病疑惑を告発した張本人でもある作曲家・新垣隆氏にも早い段階から取材を申請していた。

だが、なかなか実現しないまま連載は進行。ようやく両者の対面が成ったのは、『淋しいのはアンタだけじゃない』の最終回原稿の脱稿直前のことだった。

結局、同連載で描くことは叶わなかったが、「お蔵入り」となるのはあまりにもったいない。そこで、「現代ビジネス」は吉本氏側・新垣氏側双方の了解を得て、このインタビューを掲載することにした。

「聞こえないと思ったことはない」の根拠

吉本 今回は、取材に応じてくださり、ありがとうございます。

新垣 こちらこそありがとうございます。私としては、今日はとにもかくにも吉本さん、サクライさんに話を聞いていただきたい、という気持ちで参りました。

サクライ ありがとうございます。この作品を始めるにあたり私が吉本さんにお願いしていたのは、佐村河内さんに限らず、聴覚障害についてできるかぎり客観的に、第三者からもイメージしやすいように描いてほしい、なおかつ吉本さんが思ったことは偽らずそのまま書いてほしい、ということでした。

それを佐村河内さんには了承いただいた上でああいう描写になったわけですが、今回はそれと同じ条件で応じてくださるとことで、重ねてお礼申し上げます。

ご承知の通り『淋しいのは~』では、佐村河内さんから彼の聴覚障害についての話を聞くとともに、彼のいわゆる「ゴーストライター騒動」と「詐病疑惑」についても、彼自身の口から言い分を聞きました。

『淋しいのはアンタだけじゃない』第一集より

それにより、私たちが彼に対し偏見を抱いていたと思わされた部分もありましたし、あの騒動は何だったのか、改めて考え直すことにも繋がりました。

とはいえ、一時の狂騒が収まってしまえば、メディアが「その後」を報じることはほとんどなく、特に彼の聴覚障害については、ほとんど検証されることもなく、それでいいのか……と思うところがありました。そこでぜひ、もうひとりの当事者である新垣さんにもお話を聞きたいと思ったわけです。

吉本 まず、聴覚障害をテーマにしたこの漫画を読まれてどんなことをお感じになったか、率直に教えていただいてもいいでしょうか?

新垣 はい。聴覚障害者の方々が非常に困難な生活を強いられていることや、その方々の思いが私たちにも理解できるように描かれており、とても興味深く拝見しました。難聴者の多くが耳鳴りに悩まされている、ということなのですが、終盤に描かれていた、徐々に耳鳴りのメカニズムが解明されつつある、ということや、その客観的な測定法、治療法の研究が進んでいることなど、非常に重要な情報も盛り込まれた意義のある漫画だと思いました。

サクライ 佐村河内守さんについての描写はどう思われましたか? 新垣さんは佐村河内さんの聴覚障害について、これまで「聞こえていないと思ったことはない」と断言されていますが、この漫画では多くの聴覚障害者、特に彼と同じ中途失聴者から「(佐村河内氏は)本当に聞こえていないと思う」とうかがったことで、結果的に私たちがその真偽についても考えていくという内容になりました。

新垣 そうですね……。ご存知のように私は、佐村河内氏のゴーストライターを20年近く務めてきたのですが、そのなかで私たちが今やっているようなごく普通の会話、健聴者同士でやるのと何ら変わらないやり取りをしてきましたし、彼が私とのコミュニケーションにおいて不自由していると感じたことも全くありませんでした。

その経験を踏まえれば、やはり漫画の中に出てくる聴覚障害者の方々と、佐村河内氏を同列に並べるのは無理がある、というのが、素直な感想です。

吉本 ……ドキュメンタリー映画『FAKE』に出てくる、森達也監督と佐村河内さんのやりとりも、新垣さんから見ると違和感があるのでしょうか?

新垣 ええ。あの映画の冒頭に出てくるシーンからして「ああ、(芝居を)やっているな」と思いました。たとえば映画に出てくる彼の自宅は、常に居間がカーテンで遮光されていますね(編集部注=佐村河内氏は、自分が常にサングラスをしているのは日差しが眩しいと耳鳴りがひどくなるためであると、2014年3月7日の謝罪会見でも説明している)。しかし私はあの部屋で、2012年から13年にかけて少なくとも4、5回彼と打ち合わせをしていますが、その時は全く遮光などしていなかったんです。

吉本 僕らが取材した時もかかっていたあのカーテンが、ですか…?

新垣 また映画では、森監督が佐村河内氏と話す時は彼の奥さんが間に入り、手話で通訳していましたね。しかし私との打ち合わせでは奥さんが同席することはなく、必ず1対1でした。私は手話ができません。にもかかわらず私と彼の打ち合わせでは、ごく普通の会話が成立していました。

吉本 失礼ながら新垣さんは、一般的な人に比べてかなり声が小さい方のように思います。佐村河内さんとの会話でも、今くらいの声で会話されていたのでしょうか?

新垣 そうです。彼との会話でもこんな感じでした。ご指摘のように私の喋り方は少し籠もり気味で……。

吉本 僕らの取材では、佐村河内さんは、「新垣さんとの打ち合わせでは私がほぼ一方的に喋り、新垣さんはそれについてせいぜいイエスかノーで答えるくらいだったので(手話通訳なしの)コミュニケーションが成立していたんじゃないか」ということも言っていました。しかし実際は、新垣さん本人もそれなりに発言なさっていたということですか?

新垣 基本的に彼が「こういう曲を作りたい」というリクエストをし、私がその聞き役だったのは事実です。しかしそうはいっても、さすがに相槌を打っているだけでは打ち合わせにはなりませんから、今日この場でお話している程度のことは喋っています。

新生・ブルーバックス誕生!