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週刊現代

元電通の青年失業家を暴走させた「人生を変える10冊」

泣いて、笑って、スイッチ入れて

マルクス資本論“文学”

1位は大長編を読む喜びを味わえる小説です。数年前に「第九」を歌ったとき、『ジャン・クリストフ』を読まないとベートーベンはわからないと、指揮をしてもらった齊藤一郎さんに言われ、手にとりました。

ベートーベンがモデルといわれる主人公は、最初、めちゃくちゃ性格が悪い。口も悪いし、人を見下している。そんな人間が成熟していく過程が描かれていて、大長編でしか得られない満足感を存分に得られます。読むと疲れきりますが(笑)。

また、この小説が交響曲みたいに作られているところも心地いいんですね。各巻が交響曲の楽章に対応しているようで、読んでいるとベートーベンの曲が聞こえてくるんです。

2位もかなりの長編です。21世紀のいま、『資本論』をもう一度読まないと人類は危ないと思っています。

まず断っておきますが、僕はコミュニストではありません。それでも、なぜ貧富の差がこれだけ拡大しているのか、資本主義がどこに行き着くのかは知りたいと思った。今となっては現状とそぐわない箇所もありますが、同時に読んでおくべき予言や思考実験が書かれています。

また、これだけの長編になっているのは、例え話が多いからなんです。え、この例え話、要ります? と突っ込みたくなる話がふんだんに盛り込まれている。

結果、長いぶん、文学的な読み物として成立しているんです。こうした長編にどっぷりはまることで、例え話や無駄話で寄り道するような文章が好きになり、自分でも好んで長文を書くようになりました。そんな僕が思う、例え話が延延と続く極め付きの作品が『千のプラトー』です。

資本主義が進むと、人間の心がいかに疎外され、分断されていくか。しかし、その先には希望があることを描こうとしている。ですが、あまりにも多くの例え話が羅列されていて、思想書というより、長い詩を読んでいるような気分になります。

また、新しいことを言ってやろうという意気込みは強く感じるけど、特段、何も言っていないような気がしなくもない(笑)。内容よりも、むしろ、その取っ散らかった書かれ方に、資本主義が進みきった、何でもありの時代の状況が映し出されているようにも感じる。

難解そうだと敬遠せず、ぜひ一度、読み切ることをお薦めしたい特異な本です。

ここからは大長編ではなく普通の小説を。

まず、開高健さんのベトナム戦争を舞台にした『夏の闇』と『輝ける闇』は、どちらを先に読んでもいいけれど、2冊はセット。これは開高さんも言っています。

『夏の闇』のラストが『輝ける闇』の冒頭につながるように作られているんですね。さらにこの2作は、米国のミュージシャン、マーヴィン・ゲイの有名なアルバム『What's Going On』と『Let's Get It On』とも呼応していると僕は思っています。

もちろん二人は何の交流もなかったし、意識もしていなかったはず。それなのに、'70年代初頭に流れていた時代の空気が日本の文学作品とアメリカの音楽作品に、ぴったりとシンクロした形で表れている。こんなことが起こり得るのかと身震いします。

69』は実は1位にしたいぐらい好きな作品です。村上龍さんの自伝的な青春小説は、どこを読んでも笑えて最高。スカッとする本といえばこれです。文字が突然大きくなるのもギョッとして楽しいし、主人公が勝利しないラストもいいんです。

いちばん泣いた本

対して、泣ける本といえば『さようなら、ギャングたち』。いちばん泣いた本です。高橋源一郎さんはこの小説を命がけで書いたんじゃないかと僕は思っています。上滑りで書かれた言葉は一つもないと感じるから。また、〈小説=ノベル〉の語源はラテン語で、〈新しい〉という意味。断章形式で書かれたこの作品は、まさに新しいという意味でも小説なんです。