『コウノドリ』TBS 系
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『コウノドリ』モデル産科医が明かす「出産現場のリアル」

涙の物語は、真実から生まれている

僕が大切に机に置いている座右の書があります。

当時幼稚園生だった、お子さんからもらった手紙です。これがなかったら、僕はいま産科医ではなかったかもしれません――。

荻田さん提供

250回に一回は母児への危機がある

ドラマをご覧になったり漫画をお読みになったりするみなさまの中は、もしかしたら「本当に周産期医療の現場であれだけドラマティックなことが起こっているのか?」と感じられた方もいるかもしれません。

産婦人科医は多分一生のうちに数千件の分娩を扱うと思います。だから、十数人の命に関わる症例に直面する計算になります。僕の勤めている周産期センターは、そういった重症例が日常的に搬送されてきます。不遜な言い方になりますが、野球にたとえると「地方大会の決勝戦」みたいなものです。

漫画もドラマもそれを更にぎゅっと凝縮して「甲子園のベストエイト」級のエピソードだと思って頂ければいいです。

10月13日からパート2の放映が始まったTBSドラマ『コウノドリ』。産科医にしてジャズピアニストという異色の鴻鳥サクラを主人公としたドラマで、鈴ノ木ユウさんの漫画を原作にしたもの。2015年のパート1放映後も続編を望む声が多かった人気作だ。人気の理由は、なんといってもそのリアリティ。周産期医療の現場で起きる命の奇跡に、毎回ツイッターでも「泣きすぎてカラカラ」「覚悟をきめてみたけど泣けていかん」etc……と涙の嵐。そこで、「これだけドラマチックなことは本当に起きているのか?」について、自ら綾野剛が演じているサクラのモデルになった荻田和秀医師(大阪りんくう総合医療センター泉州広域母子医療センター長)に事実について証言してもらった。荻田医師が本音満載で書いた著書『妊娠出産ホンマの話 嫁ハンの体とダンナの心得』からの引用とともにご紹介する。

250回に1回を、2万回に1回の危機に下げる

当初は『コウノドリ』という作品がここまで支持されるとは思ってもみなかった(鈴ノ木先生すんません)ので、未だに戸惑っています。

僕にしてみたら、これら作品のひとつひとつが初心を思い出させてくれるものなので、有り難いと同時に身の引き締まる思いではあります。

多くの同業者は医療ドラマをあまり観ません。あまりにもあり得ない設定や筋書きが多いからです。

でもドラマ『コウノドリ』には「あるある」が満載されているし、産婦人科にかかわる人たちの日常や本音が漫画から受け継がれています。その上ドラマのセットや小道具、ちらっと映るだけのエコーやMRIの画像までリアリズム追求してあるので、多少ドラマティックなアレンジをされていても、自分たちの日常に落とし込んで観ることができています。

そういった制作する人たちの丁寧な仕事が、我々同業者からの支持も得ているのではないかと思っています。

 

俳優さんにしても、例えば、鴻鳥サクラを演じている綾野剛さんがどれだけリアリティを大切にしているかは、2年前のドラマ放映時にお話させていただいたとおりです。

ドラマを観ると、一度は漫画で読んだり、プロデューサーや脚本家の先生方と打ち合わせて免疫がデキているはずなのに、グッときますね。

漫画では僕が個人的にとても思い入れの強いエピソードがあります。それは「子宮内胎児死亡」の回です。医療者としても受け止めるのがかなり苦しいのですが、それを家族目線で考えさせられて呼吸困難になりました。

この第二弾のドラマで取り上げられるので是非!……ああ、観たいけど観たくないなあ……(絶対滂沱の涙になるので)。

日本産婦人科学会などの研究では、リスクのないお産でも250回に1回は母児の命に関わる事象が起こることがわかっています。産婦人科医のさまざまな努力だけでなく、『コウノドリ』に出てくるように、救命医や新生児科医とのチームワークでこの危険性を2万回に1回程度にまで下げているのが日本の周産期医療の現状です。

ですから漫画やドラマに描かれているのは多くの周産期センターで働く人が経験するか見聞きした症例のはずで、これらはまさに「250回に一回を2万回に一回にしている、現場のリアルな物語」なのです。

もちろん毎日があのような戦闘をしているわけではないです。僕の勤務先だって三日間お産のない時もあります。産科は水商売で待つ仕事なんです。