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選挙 民俗学

敢えて言おう。いまこの国には「死者のための民主主義」が必要だと

伝統にもとづく「草の根」の思想

「草の根」の意味を問い直そう

今回の衆議院選挙で、新党の結成とその動向が注目を集めていることは間違いない。

新党とはもちろん小池百合子東京都知事を中心とした希望の党であり、希望の党の連携を決めた民進党から分かれた、枝野幸男代表率いる立憲民主党である。

民進党は前原誠司代表の就任にともない、この2党に引き裂かれたわけだが、希望の党は保守、立憲民主党はリベラルと目される。

小池知事が9月27日に発表した希望の党の綱領では、「寛容な改革保守政党を目指す」とし、「改革する精神のベースにあるのは、実はこれまでの伝統や文化や日本の心を守っていく保守の精神」だとした。

希望の党は綱領でも、「立憲主義と民主主義に立脚」することを掲げる。立憲民主党の方も党名どおり、立憲主義と民主主義の擁護を強く主張している。

枝野代表は、遊説やインタビューで、強いリーダーが結論を押しつける「上からの民主主義」ではなく、国民の声に幅広く寄り添う「草の根からの民主主義」にしていくことが大事だと訴えた。

「草の根民主主義」という言葉は、1970年代からに当時の革新勢力によって唱えられた理念だが、21世紀の現在、リベラルの理念としてほかにふさわしい言葉がなく、掲げられることになったのだろう。しかし立憲民主党にとっての「草の根」が、いかなるものを指すかは具体的ではない。

筆者がこの選挙に最も期待していたのは、東日本大震災からの復興と、エネルギー政策、2020年に開催が予定されている東京オリンピック・パラリンピックについて、各政党がどのように具体的な見通しを示すかということだった。

さらには、保守やリベラルという理念、立憲主義や民主主義、象徴天皇制も含めた戦後の再検討が必要だと感じていた。しかし言葉が空回りするばかりで、こうした議論が深められることはなかった。

この機会にこそ、「保守」や「伝統」、あるいは「草の根」とは何かを、改めて見つめなおすべきではないだろうか。

 

「死者を会議に招かねばならない」

そこで筆者が思い浮かべるのは、20世紀の初めの同じ時期に、イギリスの作家と日本の民俗学者が主張した、「死者のための民主主義」というべき思想である。

まずイギリスの作家とは、探偵小説“ブラウン神父”シリーズで知られ、批評家、詩人、随筆家としても名声を博したギルバート・キース・チェスタトン(1874〜1936)である。

日本の民俗学者とは、農商務省の官僚から民間伝承研究家に転じ、『遠野物語』『先祖の話』などの著作によって“民俗学の父”とされる柳田国男(1875〜1962)である。

チェスタトンはその主著と目される『正統とは何か』(1908年)でまず、民主主義が伝統と対立するという考えがどうしても理解できないと述べる。

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