北朝鮮 インテリジェンス

日本に自由に出入りする「北朝鮮工作員」驚くべき実態

私が出会った北朝鮮工作員 第2回
竹内 明 プロフィール

利用される「土台人」たち

さらに、金元工作員は日本が北朝鮮工作員たちにとって活動しやすい場所である理由を、こう指摘した。

「日本は工作活動の環境が整っている。警戒が甘いだけではなく、朝鮮総連や民団の中に工作補助をさせられる人間もいるし、日本人になりすましている我々の工作員もいる。外見が似ているので怪しまれることもない(金元工作員)

日本に浸透した工作員にとって一番必要なのは、一時的な定着先(隠れ家)と活動資金である。これを在日朝鮮人から提供を受けるというのである。独り暮らしは怪しまれやすいため、できれば住宅の一室などを間借りするのが望ましいとも金元工作員は話した。

 

だが、在日朝鮮人の人々が、誰もみなもろ手を挙げて工作員を歓迎するわけがない。平穏な暮らしを送っているのに、見ず知らずの工作員に協力などしたくないという人のほうが普通だろう。

それを見越して、工作員は周到に準備を重ねる。ターゲットになるのは、北朝鮮に親族がいる「土台人」と呼ばれる在日朝鮮人たちだ。工作員は彼らの自宅を訪問する。そして、こんなことを言うのだ。

「平壌にいるお兄さんの家族にお会いして来ました。よろしくとおっしゃっていました。私に協力していただければ、お兄さんの一家は末長くお幸せです」

工作員は1枚の写真を見せる。写真には兄の一家が写っており、その中心に、目の前にいる工作員が一緒に写っているではないか。見せられた本人は青ざめるだろう。

これは土台人に対する、典型的な脅迫だ。工作員は「協力しなければ、兄一家は不幸になる」と暗に脅すわけだ。

協力者を得るための非情な「録音」

私が入手した公安警察の記録には、他にも土台人に対する、様々な脅迫のパターンが記されている。その一つが、北へ帰った母親の「声」を携えて工作員がやってくるケースだ。

記録によれば、こうだ。公安警察が、ある在日朝鮮人男性の自宅を捜索した際、1本のテープを押収した。そこには、老女の声が録音されていた。

<……お前に会えなくて悲しいんだよ。1日も早く会いたい。私はお前の顔さえ見れば死んでも、心残りはないよ。録音を持った先生が来られたら、もてなしをよくしなさいよ。先生を接待してくれたら私がどんなに良くなるか……>

北朝鮮にいる母親の声だった。このテープを聞かされて、男は「補助工作員」になることを誓約させられ、工作員に住居を提供することになったのだ。

工作員たちに狙われるのは、パチンコ業や金融業など、日本で事業に成功した裕福な在日朝鮮人である場合が多い。衣食住の面倒を全て見させた上、中には、自宅を改築させて、道路から見えない2階の1室を提供させたり、敷地内に大型犬を2匹放し飼いにさせていたりしたケースもある。

在日朝鮮人が、北朝鮮工作員による脅迫の被害者となっているケースがあることも、忘れてはならないだろう。