Photo by Gettyimages(写真はヒアリではありません…)
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もしもヒアリが沖縄に定着したら…昆虫学者が語る、本当の怖さ

止めるなら、いましかない!

この夏、神戸港で発見されて以来、「ヒアリ」というアリがメディアをにぎわせた。そもそもヒアリとはなんだろうか。ひとことで言うのであれば、「南米原産で、攻撃性と強い毒を持ち、生活能力の高い恐ろしいアリ」である。

気がついたときにはすでに刺されている!

ヒアリは英名の「fire ant」を直訳したものである。その名のとおり、刺されると火にあぶられたように痛む。

私も南米の各地で近縁種に刺されているが、種によって痛みは違うものの、ヒアリに近いものに刺されたときには、1匹に刺されても、ジワリと涙が出るほどに痛む。3~5ミリメートル程度の小さなアリでも、ミツバチよりもずっと痛く、それだけで非常に毒が強いことがわかる。

さらにヒアリの場合、かなり大きな巣を作り、その巣に誤って触れようものなら、何百という集団で体に這い上がり、刺してくるのだから恐ろしい。

 

ヒアリやその仲間のこわいところは、高い攻撃性で、体にとりついた瞬間に刺してくることである。「あ、ヒアリが体に登ってきた」と気付いたときにはすでに刺されているのである。

つまり体に登ってきても、振り払う余地がない。これは空中から襲ってきていきなり刺してくるスズメバチと同様の恐ろしさであり、さらに個体数が多いのだからやっかいである。

何百匹にも一度に刺されたら、地獄のような痛みを味わうことになるだろう。

日本でもスズメバチによって年間数人から数十人の死者が出ているが、ヒアリが帰化したアメリカでも同様に年間数人の死者が出ているようだ。

その多くはアレルギーの急性症状であるアナフィラキシーショックによるものであり、刺された知人たちをみると、ヒアリの場合はその毒の特質からか、とくにアレルギー症状が出やすいようだ。

ヒアリは、アメリカでは1930年代から帰化しており、今や南部の温暖な地域には広く生息域を広げており、もはや駆除が不可能な勢力である。さらに、ヒアリの好む環境は住宅街の空き地や牧草地、農地など、開けた場所で、人間の活動する環境とかなり重なっている。そのため、アメリカでは年間約1400万人と膨大な人々がヒアリに刺されているという。

ヒアリがたくさんいるところではうかつにサンダルを履いて散歩さえできなくなる。先に挙げたように、誤って巣に触れたら一大事だからである。よって、ヒアリが侵入した場所では、キャンプ場やゴルフ場の閉鎖など、野外活動が著しく制限される事態となっている。

電気系統を壊す、農作物を枯らす

ヒアリのこわいところは、刺すことによる人的被害だけではない。電気(磁気)に吸い寄せられる性質があり、さまざまな電気系統のなかに入り込み、それらをショートさせ、各種モーター類、信号などの電気系統を壊してしまうことがある。

またヒアリは、営巣にあたって、直径10~60センチメートル、最高40センチメートルほどの塚を作る。その際に地面を掘り起こすことになり、地面に穴や道路をあけ、ときにアスファルトが陥没するなどの被害を及ぼすという。

農業被害も著しく、電気に吸い寄せられる性質により、農業機械類を破壊するほか、さまざまな植物を食べるため、ダイズやトウモロコシなどをかじったり、アンズやミカン類などの果樹の根元に営巣し、その木を枯らしてしまうなどの被害も出ている。

もちろん、農作業の際に刺されることがあれば、作業自体が滞ることになる。

以上のような被害は具体的な数値にも表れている。アメリカでは駆除にかかる費用などをふくめ、年間約6000億円もの被害が出ているという。じつに莫大な金額である。