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野球 読書人の雑誌「本」

高校野球が空前の「大ホームラン時代」に沸く原因がわかった

道具が変わったわけではない

デジタル・ネイティブ世代の練習法

今夏の甲子園は空前のホームランラッシュに沸いた。68本のホームランが飛び出し、2006年の88回大会で記録した60本の大会記録を11年ぶりに更新した。

高校野球におけるホームランと言えば、中軸に限られるのがこれまでの相場だった。ところが今夏は、上位下位どこからでも満遍なくホームランが飛び出した。

参考までに68本の内訳を紹介しよう。1番=1本、2番=4本、3番=21本、4番=10本、5番=5本、6番=10本、7番=8本、8番=5本、9番=3本、代打=1本。

ホームランラッシュの原因はどこにあるのか。現場の指導者に話を聞いた。

1996年夏、松山商(愛媛)を率いて全国制覇を達成した澤田勝彦(現北条高監督)の感想。

「この夏、甲子園の試合を見ていて感じたのは“あの当たりで、あの打ち方で入るのかァ”ということです。昔、甲子園では綺麗なフォームで、しかもタイミングが合わないとホームランにはなりませんでした。それが今年は“あれが入るのか、これも行くのか”というホームランが多い。(前年までと)ボールそのものが変わっているんじゃないか、とさえ思いますね」

 

――指導法やトレーニング法に変化は?

「確かに近年は筋力トレーニングに力を入れる学校が増えてきた。さらに食事管理、栄養指導にも力を入れている。実質2年半で体をつくるのが今の高校野球です。写真や映像で昔と比べてみてください。上半身も下半身も今の選手はがっちりしている。そういう体をした選手じゃないと試合に出してもらえない。一方で小技が通用しにくくなっていると感じますね」

横浜高校の元監督・渡辺元智はスポニチ紙上(8月21日付)で「データの入手が容易になった」こともホームラン量産の一つの理由にあげていた。

「かつては試合前に何も情報がなく、打席に立って何球か見なければ投手の特徴はつかめなかった」

ところが近年は動画サイトを利用して情報の入手が容易になったため、初球からフルスイングしてくる選手が増えたというのである。

ある強豪校の元指導者は、こんな内情を明かした。

「近年、強豪校の多くが、いわゆる情報分析班を持っています。コーチやOBが中心になってつくり、中には父兄が参加している場合もあります。対戦相手が決まると、すぐにユーチューブで地方予選を検索し、球種や攻め方を分析する。それを編集して選手たちにわかりやすく伝えます。近隣の学校なら、公式戦はもちろん、練習試合もほとんどビデオ撮影しているため、情報に困ることはまずないですね。

それに今の選手たちはデジタル・ネイティブの世代なので、こちらが指示する前に自分たちでスマホを使って自主的に対戦相手のことを調べ上げています。SNSを活用して、野球仲間から情報を集めている選手もいるようです」

「剛よく柔を断ず」時代の到来

打高投低の色合いが濃くなることで、セーフティーリードという言葉は死語に等しくなった。先取点も、さほど大きな意味を持たない。ともに優勝経験のある強豪校同士の激突として注目された興南(沖縄)対智弁和歌山(和歌山)の一回戦屈指の好カードは、興南が三回裏まで6対0とリードしていたが、あっさり引っくり返され、智弁和歌山が9対6で勝利した。

準々決勝のスコアを見てみよう。東海大菅生(西東京)9対1三本松(香川)、天理(奈良)13対9明豊(大分)、広陵(広島)10対4仙台育英(宮城)、花咲徳栄(埼玉)10対1盛岡大付(岩手)。続いて準決勝。広陵12対9天理、花咲徳栄9対6東海大菅生。決勝は花咲徳栄14対4広陵。

準々決勝以降、勝ったチームは全て9点以上記録している。重要なのは、コツコツと得点を重ねることではなく、いかにしてビッグイニングをつくるか。「柔よく剛を制す」ならぬ「剛よく柔を断ず」時代の到来といっても過言ではあるまい。