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野球 ライフ 週刊現代

ソフトバンク・千賀滉大「ゼニの取れるフォーク」が生まれるまで

育成出身、2年連続2桁勝利を達成
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通常のドラフトで指名されたエリート選手に比べれば年俸は半分以下。契約金もない。プロで花開くことなく球界を去る「育成選手」も多いなか、何故この男はここまで這い上がれたのか。

博多湾のむこうに一軍が

チームを車にたとえるなら、東北楽天や埼玉西武とは排気量が違っていた。8月15日、本拠地でオリックスに勝って首位に立つと、そのまま猛スピードでゴールを駆け抜けた。

終わってみれば2位・西武に14.5ゲーム差。獅子やイヌワシを歯牙にもかけない強さで福岡ソフトバンク・ホークスは2年ぶりにパ・リーグを制した。その戦いぶりは〈無敵の若鷹軍団〉(応援歌の歌詞)そのものだった。

優勝翌日のスポーツニッポン紙(9月17日付)にユニークな鼎談が掲載された。千賀滉大、甲斐拓也、石川柊太による〈出世魚トリオトーク〉だ。

優勝時点で13勝3敗、防御率2.23。ひとりで貯金を10もつくった千賀。170センチと小柄ながら主戦捕手に成長した甲斐。そして先発、中継ぎとフル回転した石川。彼らはいずれも「育成」出身なのである。

一般企業にたとえて言えば非正規雇用ながら、その働きぶりが評価され、正社員にとりたてられるとともに、報酬面でも大幅なベースアップを勝ち取った、いわば〝非エリートの星〟である。

 

千賀の次のセリフが泣かせる。

〈1軍に行きたいという気持ち。3人ともあったと思う。ちょうど西戸崎から(博多湾を挟んで)見えていて、ドームで投げたいって。〉

西戸崎とは福岡市東区にあった二軍・三軍の合宿所である。約8キロ先に一軍の本拠地ヤフオクドームが威容をたたえている。越すに越されぬ博多湾を眺めながら、彼らはハングリー精神を養ったのである。

「バチバチに意識した」

日頃、あまり感情を表に出さない千賀が珍しく興奮モード全開で振り返る試合がある。

8月19日、敵地での楽天戦だ。ゲーム差は4.5。もう後のない楽天はエース則本昂大に先発のマウンドを託した。

千賀、則本ともに侍ジャパンのメンバーとして今春のWBCに出場した日本を代表する本格派投手である。

この2人は開幕直後の4月4日にも投げ合い、この時は則本に軍配が上がっている。千賀は6安打4四球と乱れ、4回でマウンドを降りた。

則本 昂大Photo by GettyImages 則本 昂大

それだけに、試合前から千賀には期するものがあった。

「尊敬できる先輩だからこそ勝ちたいんです」

初回から飛ばしに飛ばし、8回まで毎回の10奪三振。ここぞという場面では〝伝家の宝刀〟を抜いた。世界を驚かせた〝お化けフォーク〟だ。

ストレートも冴えた。2対0の8回2死、6回にヒットを打たれている島内宏明に対して投じたストレートは152キロを計測した。

8回無失点で11勝目。2位楽天とのゲーム差を5.5にまで広げ、ペナントをたぐり寄せた。沸き立つ一塁側ベンチを横目に、三塁側ベンチは静まり返っていた。

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