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トランプと金正恩が信奉する「狂人理論」は、いつか限界を迎える

世界最悪のチキンレースの行方

トランプ流交渉術の「元祖」はニクソン

トランプ大統領の言動は、予測不可能で不確実性が高いと評されています。その背景には、「常に敵にとって自分が予測不可能に見えることが、交渉・取引を有利に進めるために不可欠である」という信念が存在します。

トランプ大統領がこうした信念を持つきっかけとなったのは、1987年12月21日、まだ41歳の実業家にすぎなかった彼が、1通の手紙を受け取ったことでした。その手紙には、リチャード・ニクソン元大統領の署名がありました。

ニクソン元大統領は手紙の中で、テレビの人気トーク番組「フィル・ドナヒュー・ショー」にゲスト出演したトランプ氏を観た、ニクソン氏の妻・パット夫人の感想について綴っています。

妻がトーク番組に出演しているあなたを観て、すばらしいと私に伝えました

そのうえで、ニクソン元大統領は次のように述べました。

妻はあなたが選挙に出馬すれば、必ず勝てると予言しています

 

当時、トランプ氏は番組の中で、会場にいる参加者から「ニューヨーク市長選に出馬しないのか」と何回も質問を受けましたが、否定しています。

また、この番組でトランプ氏は、現在と全く同じロジックを用いて、日本のことをこう批判しました。

日本は米国で金を稼いでいるのに、米国は日本を防衛している。日本は米国を利用しているのだ

2016年米大統領選挙で彼が勝利を収めたとき、米政治専門紙「ザ・ヒル」は、「トランプ大統領は、大切に保管しているこのニクソン元大統領からの手紙を、ホワイトハウスの執務室に飾るだろう」と報じています。

第37代大統領リチャード・ニクソン氏(Photo by gettyimages)

確かにトランプ大統領の言動には、そのはしばしにニクソン元大統領の影響を見てとることができます。

先の米大統領選挙で、トランプ候補(当時)はニクソン元大統領が用いた「サイレント・マジョリティ(物言わぬ多数派)」という言葉を好んで使い、意中の有権者に訴えかけました。

2015年の共和党候補指名争いの最中、中西部アイオワ州デモインを訪問した際にも、トランプ氏は「物言わぬ多数派」という言葉を使い、その内訳を「ワシントンのエスタブリッシュメント(既存の支配層)から忘れられた人々である」と述べています。具体的には、主として白人労働者及び退役軍人です。

さらにトランプ大統領は、ベトナム戦争においてニクソン元大統領が北ベトナムを交渉のテーブルにつかせ、戦争を終結させるために使った「狂人理論(madman theory)」を学び、北朝鮮問題にそれを応用しています。「狂人理論」とは、敵に「こいつなら、どんなことでもやりかねない」と信じ込ませ、交渉のテーブルに引きずり出す戦略のことです。

身内の発言を否定する理由

トランプ大統領がこれまで北朝鮮に対して発した「炎と激怒」「完全破壊」及び「(金体制は)長くは続かないだろう」といったメッセージは、まさにこの狂人理論を実践したものです。

また、ホワイトハウスに軍高官とその配偶者を集め、写真撮影を行った際に発した「嵐の前の静けさ」や、自身のTwitterに書き込んだ「一つのことしか機能しないだろう」といった真意を読みづらい発言も、狂人理論に基づく発言です。その狙いは敵=金正恩の心を乱し、北朝鮮首脳部を不安にさせることです。

トランプ大統領が狂人理論を応用した具体例を、もうひとつ挙げてみましょう。

周知の通り、米国の外交・安全保障問題に関して、トランプ大統領とレックス・ティラーソン国務長官の発言の間には明らかな不一致がみられます。

例えば先日、ティラーソン長官は核・ミサイル問題に関して、複数のルートを通じて北朝鮮に直接対話を行っていることを認めました。これに対して同大統領は、自身のツイッターに「私はすばらしい国務長官に、『キミは小さなロケットマン(金正恩氏)と交渉しようとして、時間を無駄にしている』と伝えた」と投稿し、同長官の外交努力を否定するようなメッセージを発信しました。