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ガン発見に耐性菌退治…最新医療の要「ふしぎなATP」の底力

生命の本質につながる物質

高校生物に出てくる項目でありながら、生物の先生でさえ細かいところまで説明するのは難しいと言われる「ATP」。しかし、ATPこそ生命を支える重要なカギを握る物質。それを取り巻く精密機械のような細胞小器官や酵素なども含めて、生物学を学ぼうという人には必須の知識なのです。

二井將光氏によって書かれた『生命を支えるATPエネルギー』は、そんな理解が難しいATPの合成のしくみから医療への応用までを、わかりやすくまとめた一冊。本書をもとに、今回は入門編として「ATPの正体」について解説します。

そもそもATPとはなにか?

私たちが生きて活動できるのは、なぜなのか、いったい生命を維持するために欠かせない「エネルギー」は、どこからどう作られているのか。その中心となるのが、ATPです。

ATPとは、「アデノシン3リン酸」と呼ばれる化合物のこと。英語名の頭文字、Adenosine Tri-Phosphatの文字をとった略語です。このATPの働きによって、私たち生命が生きる上で欠かせないエネルギーを運搬しその維持を図っているのです。

ではまず、私たち人間や動物の体内に、エネルギーが取り込まれるまでのプロセスをお話ししましょう。

地球上の生物を生かしているエネルギーの大部分は、実は「太陽の光」をその源としています。太陽の光を、生物が使いやすい形に変換しているのが、植物です。

植物が光を利用して「光合成」を行っているということは、誰もが一度は耳にしたことがあるでしょう。では、光合成とは何かというと、「植物が二酸化炭素と水を取り入れて、酸素とエネルギーを作る働き」などと説明されます。

より厳密には、光合成は2つの過程に分かれています。第1の過程は「明反応」で、植物は光のエネルギーを利用して、水を酸化・分解し、酸素、水分子を分解して作る還元型化合物、そしてATPを作ります。

第2の過程は「暗反応」と呼ばれ、明反応で作った還元型化合物とATP、そして二酸化炭素を使って、さまざまな糖を作るものです。

こうして、太陽光のエネルギーは、植物の内部での明反応、暗反応を通して、最終的に糖に変わっていくのです。もとは太陽のエネルギーだったものが、糖の化学結合の中に保持される。糖はいわば、太陽のエネルギーで充電された「電池」のようなものです。

この糖を草食や雑食の動物が食べ、さらにそれらの動物を肉食動物が食べる――。こうしたサイクルを通じて、植物が作った糖は、動物たちの細胞内へ取り入れられていきます。私たち人間も、このエネルギーを利用して生きています。

では、植物が作ってくれた「エネルギーの電池」を、動物はどのようにして利用するのでしょうか。その過程で起こる化学反応は1段階ではなく、何段階もの化学変化を経て、少しずつエネルギーを取り出していきます。この物質の変化の過程をまとめて、「代謝」と呼んでいるのです。

植物が作った糖(グルコース)を代謝したとき、生物が細胞内で作り出すのが、この記事のテーマである、アデノシン3リン酸、つまりATP とよばれる化合物です。

化学的に見た、ATPの構造は、下図のようになっています。詳しく見てみると、「アデノシン」と呼ばれる、アデニンとリボースの部分のうち、リボースの水酸基(-OH)のひとつにリン酸が結合し、このリン酸に、さらに、2つのリン酸が次々に結合している形となります。