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パンダが教えてくれる中国外交「次の一手」

シャンシャンは一帯一路の秘密兵器…?
家永 真幸 プロフィール

「一帯一路」構想に沿って貸し出す

こうしてパンダは、中国との政府間関係が悪ければやって来ないという意味では、依然として「友好の使者」としての役割を残しつつ、その授受は多分に商業的な性格も帯びるようになった。

一方、ワシントン条約の規定により、パンダの「国際」取引が禁じられたことで、パンダには新たな政治的役割が付与されることになった。それは、中国の「国内」がどこまでかを演出する、という役割である。

実は、中国政府は1990年代末以降、パンダを香港・マカオに「貸与」ではなく「贈呈」することで、両地域のイギリス・ポルトガル統治からの返還を祝う、という活動を行っている。

台湾に空輸されるパンダ2008年、馬英九政権の台湾に空輸で贈呈されるパンダ photo by gettyimages

さらに、2008年には、国民党の馬英九政権下の台湾にもパンダを「贈呈」している。対中融和政策をとっていた馬政権は、「台湾は中国の一部である」という認識については北京側と共有していたため、これを受け入れたのである。

台湾へのパンダ贈呈は、中国にとっての「台湾問題」の焦点が、国際社会における合法中国政府の座をめぐる争いから、「いかにして台湾を独立させないか」をめぐる争いへと移行したことを、如実に物語っている。

習近平時代に入ってからも、中国は積極的にパンダ外交を展開している。2014年にはベルギー、マレーシア、16年には韓国、オランダ、17年にはドイツ、インドネシアの各国が提供を受けたほか、フィンランド、デンマークへの貸与計画もすでに発表されている。

これらの送り先は、「一帯一路」(=習近平国家主席が推進する経済・外交圏構想)下でのヨーロッパ、東南アジア重視や、北朝鮮核問題における韓国との関係強化といった、習近平体制の大局的な外交戦略を反映していると見ることもできるだろう。

 

中国風の「パンダ館」建設を要求

筆者の理解する限りでは、パンダはこれまで相手国政府から「譲歩」を引き出すための交渉カードとして機能してきた形跡はない。

中国政府がパンダに期待しているのは、多くの人々に愛されるこの動物が話題になることで、現地メディアでの中国に対する否定的な報道の印象を薄め、社会の対中警戒感を緩和することで、相手国政府にとって対中融和政策をとりやすい環境を整える、といった効果であろう。

そして、そのようなパンダの特質は、中国国民党が「パンダ外交」を発明して以来、大きく変化していないと考えられる。

これまでのパンダ外交は、国際社会からの要求をその時々の対外宣伝戦術に巧みに応用した、ある意味で「受動的な」産物であった。欧米や日本社会におけるパンダブームにしても、動物保護に関する国際ルール整備にしても、初めから中国政府が狙って引き起こしたものではない。

しかし、近年の動向からは、より能動的にパンダ外交を展開していこうという中国政府の意欲が見てとれる。

その送り先には、これまで必ずしもパンダ誘致に熱心ではなかった国々も名を連ね、受け入れ側は中国風建築の「パンダ館」の設置を求められている。一方、レンタル料金については柔軟な対応がなされているようで、報道によれば、インドネシアへの提供ではレンタル料金の代わりにテングザルおよびコモドオオトカゲとの交換が予定されている。

パンダ外交は、中国政府自身がパンダの「ありがたみ」を積極的に規定・発信し、それを外交戦略上重要な国々との関係強化に利用していくという、また新たな局面に入りつつあるのかもしれない。

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