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「言葉の暴力」夫と息子から罵られ続け壊れた女

育てられない母親たち⑨

ノンフィクション作家の石井光太さんが、「ワケあり」の母親たちを密着取材していく本連載。彼女たちが「我が子を育てられない」事情とは?

* 石井光太さん記事バックナンバーはこちら http://gendai.ismedia.jp/list/author/kotaishi

家庭内におけるDVは、カラダの暴力だけにかぎったことではない。DVと呼ばれる加害行為の中には、「身体的暴力」のほか、「精神的暴力(言葉の暴力など)」「社会的暴力(嫉妬による行動規制など)」「経済的暴力(生活費を渡さないなど)」「性的暴力(夫による強制的な性行為など)」等がある。

こうした中で多いのが、「精神的暴力」だ。配偶者からの絶え間ない言葉の暴力によって精神的に追い詰められていくのである。

今回取り上げたいのは、こうした言葉の暴力が夫婦という横の関係だけでなく、親子という縦の関係をも破壊し、育児困難家庭が生れる仕組みである。

3時間も4時間も罵り続ける

山塚秀則と亜優美(共に仮名)は、もともと同じ財団法人で働いていた。秀則は正社員として、亜優美は契約社員として勤務いていたところ、同じ部署になって言葉を交わすようになったのである。

亜優美は短大を出た後、非正規雇用の仕事を転々としていた。昔から女性との関係がうまくいかず、学校でいじめられることも多く、社会人になってからも数ヵ月おきに職場の人間関係をこじらせて転職を余儀なくされていた。

 

この財団法人に転職してきた時も、女性の先輩たちとの関係がうまくいかなくなっていた。そんな時に手を差し伸べてくれたのが秀則だった。有名大学を卒業し、たった4歳しかちがわないのにリーダーとして30代、40代の人たちをも取り仕切っている。そんな秀則が頼もしく、いつの間にか1人の男性として見るようになっていたのである。

男女の関係になってから結婚までは早かった。転職して3ヵ月目に付き合いだし、半年も経たないうちに結婚の話になった。秀則の方から「仕事を辞めて家庭に入ってくれ」と言ったのだ。亜優美は承諾。会社を辞めた時には、すでにお腹の中に息子が宿っていた。

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秀則からの言葉の暴力がはじまったのは、出産後のことだった。2人は結婚後すぐに同居せず、亜優美が実家で出産をしてから、息子をつれてマンションに移った。それから少しして秀則が亜優美を罵るようになったのである。

秀則は家事や育児の些細なミスを見つけ出しては、口汚く怒鳴りつけた。食器の汚れが取れていない、赤ん坊のお尻がかぶれている、ティッシュペーパーが切れている、電気代が高い、衣服の畳み方が雑だ……。機嫌の悪い時は、3時間も4時間も罵ることがあった。

亜優美は語る。

「最初の頃は私も男性と同棲することを含めて何もかもが初めてだったので、自分も悪いところがたくさんあるのだろうと思っていました。彼は会社でリーダーをしていたこともあって厳しい人でした。だから、無知な私に対していろいろと教えてくれているんだって。それに専業主婦をやらせてもらっている負い目もありました。だから、彼の言葉にできるだけ耳を傾けることにしていたのです」