photo by iStock
格差・貧困 不正・事件・犯罪 ライフ

恐怖の「DV連鎖」から逃れられなかった女の悲劇

育てられない母親たち⑧

ノンフィクション作家の石井光太さんが、「ワケあり」の母親たちを密着取材していく本連載。彼女たちが「我が子を育てられない」事情とは?

* 石井光太さん記事バックナンバーはこちら http://gendai.ismedia.jp/list/author/kotaishi

現在、警察に寄せられるDVの相談件数は、年間約7万件(約1万件が男性被害者からの訴え)。摘発件数は、8291件となっている。

この数は、前年比で10.7パーセント増。15年連続で、相談件数は増えている。

DVは夫婦の問題と捉えられることが多い。だが、DV家庭にも、子供がいるケースは少なくない。そこで犠牲になるのは、子供だ。

養育困難の家庭を追う本シリーズ。今回は、DV家庭における養育困難の事例を考えてみたい。

たらい回しの人生

母親は高校を中退して水商売で生計を立てていた。21歳で未婚のまま谷岡麻耶(仮名)を産むが、まもなく離婚。同時に子育てを投げ出し、幼い麻耶を実家に預けた。

だが、実家の麻耶の祖母は精神疾患を抱えていて不安定な時期があったため、伯母の家に預けたり、施設に預けたりしていて、ほぼ1年おきに暮らす場所が変わる状態だった。いわゆる「たらい回し」の人生である。

 

そんな中でも、麻耶は祖母など行く先々の大人たちに気に入られようとして「いい子」を演じつづけた。みんなが自分を厄介者だと思っているのを感じていたことから、捨てられまいとしたのだ。精神疾患を患う祖母にわけもなく殴られても、「自分が悪いんだ」と言い聞かせた。

だが、中学生に上がり、いじめにあったことで、張り詰めていた気持ちがプツンと切れてしまう。

――何もかもどうでもいい。

photo by iStock

そう思った摩耶は、学校へ行かずに近所にあった広い公園ですごすようになる。日中に町を出歩いていれば補導されてしまうので、公園の草陰や建物の裏でビニールシートを敷いて夕方までボーとしたり、昼寝をしたりするのだ。不良グループに入らなかったのは、転校ばかりで友人がいなかったためだ。

不登校をしていて困ったのは、冬の寒い時期だ。何時間も外にいると凍えてしまう。そんな時に知り合ったのが、時折公園に来てはベンチで食事をしていた小田島政樹だった。配送関係の仕事をする33歳の男性である。これまで何度か声をかけられ、おにぎりやサンドイッチをもらったことがあった。

ある日、政樹はこう言った。

「寒いだろ。学校に行ってないならうちに来る?」

寒さをしのぎたいという一心で、摩耶は政樹のアパートへ行った。彼女によれば、政樹は「怖い人ではなく、むしろすごく親切」だったという。その後も合鍵をくれて、自分が仕事に出ている時は勝手に上がっていていいと言い、冷蔵庫の中身も自由に食べることを許してくれた。

摩耶は言う。

「アパートに行きはじめて1年近くは、性的なことは何もありませんでした。仕事は比較的早く終わって4時か5時には帰ってきて、コンビニのケーキを買ってきてくれたり、映画を借りてきてくれたりした。私もやさしい大人だなって思って甘えてた」