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「地元帰るか、ソープで働くか」に悩むアラフォー女子の憂鬱

A子ちゃんとB美ちゃんの複雑な感情⑥

元日本経済新聞記者にして元AV女優の作家・鈴木涼美さんが、現代社会を生きる女性たちのありとあらゆる対立構造を、「Aサイド」「Bサイド」の前後編で浮き彫りにしていく本連載。今回は、第3試合「東京vs地方」対決のBサイド。

今回のヒロインは愛媛県出身のアラフォー女子。貯金はできないけれど、彼女が東京にどうしてもいたい理由とは?

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ゲーセンかマックしか娯楽がない

彼女の収入はそれほど芳しくない。彼女自身はそれほど生活にお金がかかるタイプではないが、ペットの犬にはお金を惜しまないタイプで、トリミングやペットフード、時々ついつい購入してしまう犬用の洋服やキャリーバッグを差し引くと、家賃をギリギリ払えるレベルで、時々光熱費や携帯代は滞納する。

自分の洋服は滅多に買わない。それほど興味もないし、買ったとしてもGUのデニムやTシャツで、擦り切れるまで着る。

 

だから彼女がもともと百貨店で働いていた、と聞くと意外に思う人も結構いるようで、彼女自身も「あの仕事は向いてなかった」と振り返る。大学を卒業してすぐについた仕事で、結局2年も続かなかった。

愛媛にある公立高校から神奈川県と東京都の境にある4年制大学に進学した。県内一番の進学校であれば都内の大学に入る同級生は多いのだろうが、彼女の高校から都内の大学に入ったのは2人だった。父親は会社員、母親は公立図書館で働いていて、妹はそのまま地元に残ると宣言していた。

「愛媛県なんて来たことないでしょ? 一番のエンタテイメントなんてゲーセンかマックだよ。それも、遠い。

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美味しいお店は確かにある。でもオシャレで美味しいお店は、もう知ってる数店しかなくて、そこはもうみんなが知っててみんなが認めてるとこ。これ以上ない、って分かり切ってる世界。まだ知らないお店がたくさんあるとか、みんなが知らない隠れ家スポットを知ってる人、とか、そういう概念がない。

うちの地元の近くにあって東京にないのは原発くらいでしょ。怖いのは、うちの妹も含めて地元の人間、それでいいと思ってるところだよ。幸せ、とか言うの」

彼女が振り返る地元の思い出話は必要以上に嫌悪と蔑視がこもっている。上京当初は女子寮のようなところに住んでいたが、水商売のバイトを始めて笹塚のマンションで一人暮らしを始めた。大学は楽しかったが、卒業して10年以上経った今、連絡をとっている友人はいない。

卒業と同時に、鉄道系の百貨店に就職した。お給料は大したことがないものだったが、地元の親が安心する程度には安定した有名な店だった。1階の婦人雑貨売り場なども担当したが、結局はそもそも好きではないものを売る仕事は続かなかった。

水商売経験も奏功し、百貨店を辞めても食うのに困るほど絶望的な状況にはならず、その頃犬を飼い始めたこともあって、笹塚からやや調布方面に引っ越した。4階建の集合住宅はエレベーターがないが、改装も自由でペット歓迎の良い物件だった。風呂とトイレが一緒であることも、1ヵ月で慣れたし、海外だと思えばまぁおしゃれと言えなくもなかった。

彼女はとても頭が良く、また現実的な思考をする。美女でもなければ巨乳でもなく、服も冴えないし、ものすごく気がきくわけでもない、ましてお酒がほとんど飲めないしアフターに付き合えば途中で眠くなる自分が、水商売で稼げるのなどせいぜい26歳くらいまでだと思っていたし、そもそも特殊な人種以外にとっては食いつなぐときに利用するくらいの距離感で入るべき業界だと認識していた。