企業・経営

人権を軽んじる企業には、1000億円以上失うリスクあり

シリーズ「人権と数字」②
石井 麻梨 プロフィール

企業にはなにが求められているのか

日本企業にとって、児童労働や強制労働など、サプライチェーン上で発生する人権侵害は一見自社とは関係ない問題とも捉えられがちかもしれません。しかし例えばアパレル製品の原料となる綿花の授粉作業、チョコレートの原料となるカカオの収穫作業など、日本企業のサプライチェーンのどこかで子供が過酷な労働に従事している可能性があります。

上記の事例から見てとることができるように、サプライチェーン上の人権侵害のビジネスインパクトは企業経営にとってけして無視することができないものです。

企業としてはこうしたインパクトの大きさを認識した上で、最低限の取組として人権方針やCSR調達基準などの策定により人権を尊重する責任を果たすというコミットメントを示し、人権への負の影響を防止・是正するためのプロセスを確立する必要があります。

 

人権への負の影響を防止・是正するための具体的なプロセスとしては、例えば人権方針やCSR調達基準について自社内や取引先で研修などを通じた意識啓発をはかったり、これらの方針・基準が自社や取引先の企業で守られているかどうかを定期的にモニタリングしたりすることが挙げられます。

さらには、人権尊重の対応を単なるコストとして捉えるのではなく、事業競争力の強化や社会貢献を通じた市場拡大のためのCSV(Creating Shared Value)戦略として位置付けることも、ブランド価値の向上や他社との差別化を図る観点から重要な取組です。

例えば紛争鉱物を使用しない携帯電話のような、人権に対応した新商品の開発など、イノベーションを通じて人権課題や貧困をはじめとする世界の社会課題を解決する事業への投資を行い、経済価値と社会価値を同時に追求していくことが、これからのグローバル企業に求められています。

企業の倫理観に対する啓発だけでは、人権問題をはじめとする社会課題は非連続に解決されません。社会課題の解決に資する取組が、個々の企業の経済合理性にもかなうことを証明することが必要なのです。

羽生田 慶介(はにゅうだ けいすけ)デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー/執行役員 レギュラトリストラテジー リーダー。経済産業省(通商政策局にてアジアFTA・EPA交渉担当),キヤノン(経営企画,M&A担当),A.T. カーニー(戦略コンサルティング)を経てデロイト トーマツ コンサルティングに参画。著書に 『最強のシナリオプランニング』(共著:東洋経済新報社)、『世界市場で勝つルールメイキング戦略』(共著:朝日新聞出版)がある他、国際通商動向に関するテレビ・雑誌・新聞等での識者コメント多数。多摩大学大学院 ルール形成戦略研究所 客員教授
石曽根 道子(いしそね みちこ)デロイト オランダ シニアコンサルタント。JICA研究所、デロイト トーマツ税理士法人(移転価格コンサルティング)、デロイト トーマツ コンサルティングを経て現職。イエール大学 研究フェロー、東京大学大学院 国際協力学博士号。博士課程在学中はアフリカの経済開発・地域研究に従事。著書に『Distribution of Mineral Resources in Zambia: A Longitudinal Analysis of the Mining Community』(共著:United Nations University Press)等
石井 麻梨(いしい まり)デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 コンサルタント。中央官庁(内閣府、財務省(内閣府より出向))において経済財政政策の分野での政策の企画立案や、政策・制度の調査業務等に従事した後、デロイト トーマツ コンサルティングに参画。ロンドン大学 LSE(London School of Economics and Political Science)行政学修士号(国際開発コース)
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