企業・経営

人権を軽んじる企業には、1000億円以上失うリスクあり

シリーズ「人権と数字」②

近年、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」をはじめとした国際的な枠組みや「英国現代奴隷法」などの各国の法令策定に見られるように、企業がサプライチェーンにおいて人権に配慮することがますます求められています。

世界的に人権対応の重要性が高まる中、日本企業においてはサプライチェーン上で人権侵害が発生した場合のビジネスインパクトに対する意識が低く、人権尊重への対応を行っていない企業が多いと考えられます。

『人権と数字』の第2回では、米国系アパレル企業及び日系自動車企業を事例に人権侵害のビジネスインパクトがどの程度のものであるかを示します。そして、企業倫理の論点のみならず、事業収益の観点でも無視できないものとなっている人権尊重について企業が取るべき対応について解説します。

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「ビジネスと人権」を巡る世界的な潮流

従来、人権保護は「国家の義務」として捉えられてきましたが、近年企業にも人権を尊重する義務があるとの考え方が世界的な潮流となりつつあります。こうした考え方は国際的な枠組みの指針になっているとともに各国の法令にも反映され、日本企業にも影響を及ぼしつつあります。

(1)国際的な枠組み

国際的な枠組みについては、2011年に国連人権理事会で承認された「ビジネスと人権に関する指導原則(以下「指導原則」)」がひとつの転換点となりました。従来の「国際人権章典」「ILO中核労働基準」などの国際的な枠組みは人権保護を「国家の義務」として捉えているのに対し、指導原則は初めて「企業の人権尊重」を明記しているという点で画期的なものです。

同原則は企業に対して①人権尊重を盛り込んだ基本方針の表明、②人権への影響を特定、防止、軽減、説明するための人権デューデリジェンスプロセス、③人権への負の影響を是正するためのプロセスを求めています。

指導原則に沿った企業行動を確保するため、国連は各国に対し「ビジネスと人権に関する国別行動計画」(National Action Plan(以下、「NAP」))を策定することを推奨しており、既に米国や英国、ドイツなど他の先進国はNAPを策定済みです。

日本は2016年12月のジュネーブにおける第5回国連「ビジネスと人権フォーラム」において「来たる数年の間に」NAPを策定予定であることを表明し、今後ステークホルダー間での協議を通してNAPの策定が進められていく予定です。

NAP自体は法的拘束力を持たないものの、他国のNAPでは国内法の制定や改正に言及しているものが多く、基本的に国内法に反映されると考えられます。日本でもNAPを通じて企業に影響を及ぼす国内法が制定される可能性があり、今後NAPの内容がどのようなものになるのか注視が必要となります。

 

(2)各国における法的枠組み

他方で、既に自国の国内法で企業の人権尊重義務を定める国が出てきています。例えば米国で2012年に制定されたカリフォルニア州サプライチェーン透明法では、同州で事業を行う世界売上高1億ドル(約112億円)以上の小売業者や製造業者に、サプライチェーン上の強制労働、児童労働、人身取引、奴隷労働をなくすために努力し、その取組を開示することが求められています。

また、英国で2015年に制定された英国現代奴隷法では、英国で事業を行う世界売上高3,600万ポンド(約50億円)以上の企業に対して、グローバルなサプライチェーン上における強制労働や人身取引の有無やリスクを確認し、「奴隷と人身取引に関する声明」を会計年度ごとに開示する義務が課されています。

米国・英国に法人をおく日本企業や現地企業と直接取引のある日本企業への影響もさることながら、間接的に取引のある二次サプライヤー、三次サプライヤーの日本企業に対してもこれらの法律の要求事項を満たすことが求められており、各国でのルール化が進むことにより日本企業への影響はますます大きくなっていきます。