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企業・経営

日本の企業も無視できない「人権マーケット」その拡大傾向

シリーズ「人権と数字」➀

従業員や会社に関わる人員の「人権」を軽視した結果、とてつもない損害を民間企業が被ることになるケースが相次いでいる。「民間企業が『人権リスク』についてより敏感にならなければ、今後、日本経済に大きな損失が生じる可能性がある」と指摘するのは、デロイト トーマツ コンサルティングのコンサルタントである石井麻梨氏だ。

海外で広がる「人権リスク」という概念に、もっと敏感になるべきだという氏の主張とは――。

日本企業はいまだ「人権リスク」に鈍感

「人権」という言葉から、みなさんは何をイメージするでしょうか。「途上国における子どもの人身売買」「紛争地域における少数民族の迫害」などのように、日本人にとっては日常生活とは離れたところにある問題を頭に浮かべがちかもしれません。

しかし、人権問題とは、私たちにとって、もっと身近なものなのです。報道などでも頻繁に目にすることのあるセクハラやパワハラは言われなく人の尊厳を傷つける行為です。長時間労働や待遇の差別のような労務トラブルも不当に人を拘束したり、貶めたりする行為として立派な人権問題のひとつです。

もし、自社のオフィスに障がい者が通行しづらい段差や物理的に入りづらい場所があるのならば、それも権利を侵害していると見なされる可能性があります。

世界は今、この人権問題に対する企業としての取り組みを求めています。2015年、ニューヨークにある国連本部において193ヵ国の首脳が一堂に会し「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択しました。従来、発展途上の国々における問題解決に取り組んできた国連が、このアジェンダで掲げたのは「誰一人取り残さない」ことです。

 

もちろん、貧しい国々の子どもたちを守ることが役目です。しかし、それだけではない、もっと身近にあらゆる全ての国々において問題解決をすることが掲げられたのです。そして、そこで掲げられる17の目標とそれに付随した169のターゲットの中には、多くの人権問題の解決に関わる内容が記されています。

誰もが賛成、のはずなのに

さて、人権問題の解決には誰もが総論で賛成です。それでありながら企業における人権問題について政府や消費者、そして企業自身の取り組みが十分でない理由のひとつは、人権問題のビジネスへのインパクトがリアリティある形で理解されていないからでしょう。

しかし近年、不幸な事件をきっかけとしながら、人権問題がビジネスにおいて極めて大きなインパクトを与えるものであることが認識されはじめてきました。違法残業労働で書類送検された大手広告代理店の株価は下落し、公的機関が同社の入札資格を停止しました。

例えば厚生労働省は6ヵ月、ほかにも経済産業省や東京都、日本中央競馬会(JRA)はそれぞれ1ヵ月の入札停止を同社に言い渡しています。民間企業の中にも同様の判断をしたケースが存在するでしょう。人権問題は「従業員や労組との小競り合い」のような軽い問題ではなく、経営者や株主にも直結する大きなビジネスインパクトあるものだという認識が出てきました。

企業の課題解決を担う、大手の経営コンサルティングファームも企業における人権問題を取り扱う事例が増えてきています。企業の業績改善と人権問題の予防・解決が切り離せないものであることが、少しずつ理解されはじめてきたことの表れでしょう。

コンサルティングファームが企業の課題解決に携わる多くのケースにおいては、課題の重要性を経営者に対して「数字で」伝えることが第一歩となります。

人権の課題においても同様で、数字でインパクトを示すことが必要です。数字にしにくい印象がある人権に関しても公的機関の統計などから様々な数字が入手できます。例えば人権侵害を受けている人の数や人権侵害をなくすために取り組む主体の数など、国連を中心とした機関がデータを公開しています。

特に、今後関心がもたれるべきは、ビジネスに関する人権の数字になってきます。SDGsは政府だけではなく企業を主要な実施主体のひとつとして位置付けており、今後ビジネスにおいて人権課題への取り組みが強く要求されることは論をまちません。

本レポートでは、まず「人権ビジネス」に関わる数字を挙げます。環境ビジネスなどと比べると人権ビジネスについてはそもそもそれがどのようなものであるかが明確でなく、関連する数字もあまり把握されていません。

人権ビジネスの市場をどのように捉えることができるかを整理し、今後人権についても環境と同じように様々な法・規制、調達基準が形成されることにより、その市場が無視できないものに発展していくであろうということを見ていきます。