テレーザ・メイ英首相〔PHOTO〕gettyimages
イギリス EU

イギリスのEU離脱問題、ソフトランディングに光差す?【現地ルポ】

あの悲観論は何だったのか…

メイ首相の「変化」

イギリスの欧州連合(EU)離脱問題を取材するため、9月中旬にロンドンを訪れた。

「ブレグジット」問題は、ご承知の通り、離脱交渉をめぐる「溝の深さ」など悲観的な見通しで報じられることが多い。

しかし、現地で取材して意外だったのは、政府関係者や離脱派の人々が交渉の行方とEU離脱後のイギリスの姿に自信を深めていることだった。

なぜなのか。交渉をめぐる最新の動向とともに現地での見聞をお伝えする。

 

まずは、離脱交渉をめぐる現状を押さえておこう。

メイ英首相は9月22日、イタリア・フィレンツェでイギリスの離脱方針を示す演説を行った。そのトーンは、「悪い合意なら、ないほうが良い」という当初の強硬姿勢から様変わりし、かなり融和的なものだった。

6月の解散総選挙で与党・保守党が過半数割れし、メイ首相は党内残留派や経済界の声などにより耳を傾けるようになっているのだろう。

演説で特に注目されたのは、最大の対立点となりそうなEU拠出金(手切れ金)支払い問題で大幅な譲歩姿勢を示したことと、離脱後に約2年の「移行期間」を設けることを提案し、この間はEUのルールを受け入れると約束したことである。

具体的には、「現在のEUの予算計画(2014~2020年)において、イギリスの離脱により、加盟国が追加支出を求められたり、予算配分を減らされたりすること恐れることを望まない」と語っている。

これは、イギリスが離脱後、少なくとも2020年度のEU予算分担金までは支払う意思を示したものだ。メイ首相は「費用の公正な分担」という表現で、今後の交渉の行方をにらみながらさらなる資金負担に応じる含みを残した。

資金の具体的な総額を示さないのは、交渉の「切り札」として温存するためだろう。

こうした提案にEU側の反応は概ね好意的なようで、交渉責任者のバルニエ元仏外相は「メイ氏は建設的な精神を示した。これは交渉におけるEUの精神でもある。演説は前向きな意思を示した」と歓迎している。

イギリスの思惑

ここで、イギリス側の思惑について多少の説明が必要となる。

メイ首相は、交渉期限の2019年3月までにEUの単一市場と関税同盟から離脱する姿勢は変えていない。筆者は、この路線が変わることはないと見ている。

嚙み砕いて説明すると、メイ首相が想定するプロセスとは、イギリスは期限内に正式にEUを離脱し、その後の「移行期間」中は暫定的に単一市場や関税同盟などEUの「取り決め」の適用だけを継続する、というものだろう。

イギリス国内には、EU離脱後もせめて関税同盟には残るなど、「部分残留」を求める声は強い。しかし、こうした選択肢は現実的ではない。なぜか。

関税同盟は域内では関税を課さず、域外からの輸入品に対し同一の税金を課す仕組みだ。EUの関税同盟は単一市場と微妙に構成国が異なり、モロッコやトルコなども加わっている。

イギリスにとって問題なのは、関税同盟に残留する場合、独自に他国とFTA(自由貿易協定)などの経済協定を結べないことである。

メイ首相や離脱派が目指しているのは、「規制の多い」EUの枠組みから外れてイギリスがより自由に貿易協定などを結ぶことで「グローバル・ブリテン」を再構築することだ。

だから、関税同盟や単一市場(FTAなどの独自交渉ができない条件は同じ)に残る選択肢は排除され、「完全離脱」の道しかないのである。