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耳の聞こえない人は、世界をこんな風にとらえていた

聴覚障害を描くこの作品を知ってますか
現代ビジネス編集部 プロフィール

作中には佐村河内氏も

――ところで本作には、最重要登場人物のひとりとして、佐村河内守氏も登場します。この展開は、本当に全くのなりゆきだったのですか?

サクライ あれも漫画に描いた通りですね。本格的に取材を始める前から、吉本さんとは「これからお会いする聴覚障害者の方々には、『佐村河内守さんのことをどう思いますか?』という質問はしておく必要があるね」と話していたんです。

それが、最初の取材者である西田薫さん(仮名)に実際にそれを尋ねてみたら、「彼は昔から知っている人だ」「彼は本当に耳が聞こえていないのかもしれない」という想像もしていなかった答えが返ってきた。僕も吉本さんもその頃は、佐村河内さんのことをあの騒動を通した先入観だけでみていましたから。

――佐村河内氏登場後の『淋しいのは…』は、佐村河内氏が「本当はどのくらい聴こえているのか」についてお二人が考察するエピソードが増えていきました。

BPO(放送倫理・番組向上機構)はABR(脳波測定による、被験者本人のごまかしができない聴力検査)の検査結果などをもとに専門医師からのヒアリングも行っており、その医師の所見は、佐村河内氏は「軽度から中等度の難聴」があると考えられ、快適な状態では聴こえないにしても会話に支障はないはず、というものでした。

その一方で佐村河内氏本人は、「ぜんぜん聞こえない」「自分の声も聞こえない」と主張しています。両者の言い分の違いに関して、お二人の中では結論は出ているのでしょうか?

吉本 そうですね……。あくまで僕の個人的な見方ではありますが、それについては最終回までに一歩踏み込んだ考えを出しています。ひとつここで述べておきたいのは、私が取材をした聴覚障害をもつ方々は、佐村河内さんに聴覚障害があることに疑いを持っている人はいませんでした。

どの程度かは分からないけれど、とも言ってはいましたが、「聞こえる」「聞こえない」を判断するのは、とても難しいことなんだ、と改めて感じています。

――佐村河内さんの登場で、当初予定していた作品の方向性が少なからず変わっていった、という面もあるのでなないですか?

吉本 そうですね……。最初は僕も、この漫画はあくまで聴覚障害についての漫画だし、佐村河内さんはこの障害のことを一般読者に紹介するための著名な一つの例くらいに思っていました。でも、今は「佐村河内さんの“わかりにくさ”」こそが、聴覚障害という障害のわかりにくさを象徴しているんじゃないかと思っています。

 

――最後に、全3巻で描ききれなかったことがあれば教えてください。

吉本 やはりありますね…。聾の方が暮らす施設に取材したときのことも描きたかったし、佐村河内さんの騒動に関しては執筆終了後にお会いできた新垣隆さんのこと…最終回でも触れた、聴覚と脳の関係についてはもっともっと描けたのではないか、とも…。

まだまだ描きたいという気持ちもありますが、しかし、聴覚障害について知るための入り口としては、3巻ぐらいの長さがちょうどよいのかもしれない、とも思います。長く読まれ続ける作品になって、聴覚障害の世界を知ってもらうきっかけになればと考えています。

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