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耳の聞こえない人は、世界をこんな風にとらえていた

聴覚障害を描くこの作品を知ってますか
現代ビジネス編集部 プロフィール

ジェット機が頭の上を飛んでいる感覚

――漫画に登場しない人も含めれば非常に多くの聴覚障害者に取材したのではないかと思いますが、彼らの取材を通じて、共通して感じたことや、特に驚いたことはありますか?

吉本 この漫画の準備を始めてから書き終えるまでに手話通訳士や医師などの関係者も含めると30~40人、各種の勉強会などでお会いした人まで含めると70人ほどの聴覚障害者にお会いしました。

共通して感じ取れたのは、コミュニケーションに対する渇望感というか、「とにかく自分の話を聞いてほしい」「自分のことを知って欲しい」という強い思いでした。

もちろん、聴覚障害のあり様は、とにかくお一人お一人で様々ではあるのですが、取材で知ってまず驚いたのは、難聴者の多くが悩まされている「耳鳴り」の凄まじさかもしれません。

取材を始める前の僕らは、聴覚障害者の人たちは皆さんいわゆる「無音」「完全な静寂の世界」で暮らしているのであって、難聴というのも、単に音が小さくしか聞こえないだけの症状かと思っていました。

ところが直に会って話を聞いてみると、これは相当の割合のかたが悩まれているようですが、彼らの頭のなかでは、「無音」どころかとてつもない轟音が、四六時中鳴り響いていて、睡眠薬を飲まなければ眠れることもできないほどに苦しんでいる人がとても多かった。

耳鳴りを治すための薬や治療法が存在せず、医師の多くが「慣れるしかない」と、患者を事実上突き放していることにも衝撃を受けました。

 

――第2話に登場する泉よし江さん(仮名)が、「ジェット機が頭のすぐ上に、旋回もせずずっといる感じ」と表現していましたね。そのイメージをストレートに絵で表現されていたおかげで、彼女の言葉がごく具体的に理解できました。

吉本 聴覚障害者の人たちが抱える現実を漫画にする上で僕が自分に課していたのは、彼らが抱える現実を「頑張る障害者」的な美談に落とし込むのはなるべく避け、できるだけありのまま表現することでした。

そのために、彼らの言うことをとにかく画で表現しよう、可視化しようということは常に心がけていました。耳鳴り一つとっても、その人の難聴の症状次第で「鳴り方」が全く違いますから。

だから取材の際には、その人が自分の症状を「何に喩えるか」を特に注意深く訊き、できるだけ具体的な喩えを引き出すようにもしていました。

――絵もそうですが、第10話では、難聴者にとっての音の聴こえ方をフキダシの中の文字を何段階か歪ませることで表現していましたね。

吉本 難聴とはどういう状態かについての説明として、僕らが今のところ最もふに落ちたのが、漫画にも出てもらった田村浩一先生(東京逓信病院医師)による、「(日常会話に)日本語での表記が不可能な音、永遠に理解できない外国語が交じるような状態」という表現なんです。

フキダシの中を変えることは、田村先生のこの言葉を漫画の中でどう表すか、サクライさんとも相談していて思いつきました。

――こうした表現に対して、読者からの反響は?

吉本 それはありましたね。難聴の方から「まさにそうだ」と言われ、自分でも驚きました。

サクライ もともと聴覚障害にある程度関心をもっている人たちからの反響はすごくありましたね。あとこれに関しては、マンガ表現という視点から他の漫画家さんに褒められることが多かったです。