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耳の聞こえない人は、世界をこんな風にとらえていた

聴覚障害を描くこの作品を知ってますか
現代ビジネス編集部 プロフィール

「漫画が音を教えてくれた」

――しかし、障害といっても様々なタイプがあります。その中で敢えて聴覚障害をテーマに設定したのは?

吉本 サクライさんと新連載の打ち合わせを始めた頃、たまたま読んでいたのが東大の福島智先生(編集部注=自身も全盲・全聾という立場からバリアフリー教育・障害者福祉の研究を行い、世界初の常勤大学教員となった盲聾者として知られる)の本で。

それに書かれていた障害についての説明が「宇宙空間を漂っているような状態」といった具合にすごくビジュアル的だったんです。

だから耳の聴こえない人たちがこの世界をどのようなものとして捉えているのか、これを画で表現できればこれまでにないマンガ表現になるのでは、という予感もありました。

そのさらに3年前の2011年秋頃に出会った、ある聾(生まれつき、もしくは音声言語を身につける前に聴覚を失った人)の方のことも念頭にありました。

当時僕は『さんてつ』という漫画を描いており、その中で、震災でトンネルに閉じ込められた三陸鉄道の車両に耳の不自由な乗客がいて、三陸鉄道の運転士たちが懸命に対応したエピソードを紹介していました。

先程の聾の方はこれを読んでくれていたみたいで、僕を地元・神奈川での三鉄応援イベントに招待してくれたんですが、そこで彼から「僕達は世の中にどんな音があるか、漫画の擬音を通じて学ぶんです」と言われたんです。

 

――漫画の第1話にも登場するシーンですね。聾の方が子供のとき、静寂を示す「シーン」という擬音を漫画で見て、「人がいないところではこういう音がするんだ」と思い込んでしまったというエピソードが印象的でした。

吉本 ええ。ただ実を言えば、その時はまだこの言葉の意味をそれほど深く理解できていたわけでもなくて、それ以上にそこで会った聴覚障害者の皆さんがみんなニコニコ笑って、楽しそうに見えたことの印象のほうが強かった。

要するに、聴覚障害者の方って基本的にみんなフレンドリーで、こちらが相当突っこんで訊いても親切に応えてくれるんじゃないか、取材しやすいんじゃないかとさえ勝手に思い込んでしまったんです。

ところが、これは漫画でぜひ読んでほしいんですが……彼らの笑顔が、聴覚障害者が抱える「ある事情」によるものかもしれないだなんて、その時は思いもよりませんでした。それを聞いたときに、とても大きな衝撃を受けて、彼らの世界を描きたいという気持ちがより増して強くなったんです。