『淋しいのはアンタだけじゃない』より
エンタメ

耳の聞こえない人は、世界をこんな風にとらえていた

聴覚障害を描くこの作品を知ってますか

小学館「ビッグコミックスペリオール」で2016年1月から今年9月まで連載された漫画『淋しいのはアンタだけじゃない』をご存じだろうか。聴覚障害者たちが生きる現実を綿密な取材と漫画特有の表現で描き出し、ノンフィクション漫画というジャンルがもつ大きな可能性を示した作品だ。

9月29日に発売された最終巻(amazonはこちらから)

聴覚障害をテーマにしたドキュメンタリー作品、ノンフィクション書籍はいくつもある。が、聴覚障害を持っている人が、実際にどんな風に音が聞こえているのか(あるいは聞こえないのか)を表現するのは困難だ。『淋しいのは~』は、その世界を擬音や絵を駆使して再現している。

話題が話題を呼び、今年の文化庁メディア芸術祭・マンガ部門の審査委員会推薦作品ともなったのだが、残念なのは、9月29日に発売された第3巻をもって完結してしまったことだ。

はっきり言って、惜しすぎる。この作品がなぜ生まれたのか、なにを描きたかったのか、それは描き切れたのか……。どうしても聞きたい。そこで、最終巻の発売に合わせて、作者である吉本浩二氏と、吉本氏の相棒役として漫画にも登場する担当編集者・サクライ氏にインタビューを行った。

「斬新な表現はどのような経緯で生まれたのか」から「『あの作曲家』との間で何が起きていたのか」まで、二人に余すことなく語ってもらった。

 

聞こえない世界、を漫画なら描ける

――この作品が3巻で終わると聞いてとても残念です。聴覚障害の世界、聴覚障害を持つ方々の苦労と考えを広める素晴らしい作品でした。

吉本 そう言っていただけると嬉しいです。ただ、連載開始時点から「この作品は、3巻ぐらいで完結させましょう」と話をしていましたので、いまは「3巻まで出せてよかった」という気持ちです。

――吉本さんは「このマンガがすごい!2012」オトコ編で一位を獲った、『ブラック・ジャック創作秘話』もお描きになっています。あの作品も優れたノンフィクション漫画ですが、今回、聴覚障害についてのノンフィクション漫画を描こうと思った、そもそもの動機はなんだったのでしょうか?

吉本 実は、障害一般についての漫画を描きたいという気持ちは昔から漠然とはあったんです。僕はもともと福祉大学の出身なので若い頃は障害のある方と触れ合う機会がそれなりにありましたし、所属していたサークルも、障害のある子やその親御さんたちとキャンプで交流するという趣旨のサークルでした。

しかし正直に言って、その大学には何かやりたいことがあって入ったわけではなかったし、サークルだって本来の趣旨を理解しないまま、単に「キャンプ?楽しそうだな」と思って入っただけでした。

結局、知り合った障害者の方々とちゃんと向き合うことができないまま卒業してしまい、それがこの後の約20年間、ずっと心に引っかかっていたんです。

2年半ほど前、僕の担当編集者で付き合いも長いサクライさんから、「(ビッグコミック)スペリオールで何か描きませんか」と声をかけてもらったときも、真っ先に頭に浮かんだのは障害のことでした。

もっともその時点では、「障害を漫画に描く」と言っても具体的に何をどう描くべきか見当もつきませんでしたし、描き切る技量が自分にあるとも思っていませんでした。

それがちょうど同じ頃、自分にとって初めての子どもを授かったことを知って、そこでようやく障害について正面から描いてみよう、という気持ちが固まったのだと思います。

なんといえばいいかな……。「これから生まれてくる僕の子が障害を持っていたり、将来的に何かの障害を持つようになる可能性もあるんだ」と思い至ったことで、20代の頃に会った親御さんたちのことが急に身近に思えてきた、というか。

今から思えば、障害について描くことによって、僕自身が障害について学びたかったのかもしれません。