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トヨタが自動運転で出遅れたのはどうやら「カイゼン」のせいだった

最大の強みが、最悪の弱みに

トヨタが抱える重大な「欠落」

1兆円を超える研究開発投資を続け、人材も資金も圧倒的に豊富なトヨタ自動車が、自動運転の商品化で出遅れているのはなぜか。ここには今後の日本の自動車産業の競争優位を揺るがしかねない大きな問題が隠されている。

実は今のトヨタには、最新のある技術が欠落しているのだ。それは、「バーチャル・シミュレーション」を使った開発手法だ。

それを説明する前にクルマの開発の流れを大まかに説明しよう。クルマは商品企画で、どのような製品にしたいか、たとえば「スポーティーな若者向けにする」といったようなコンセプトが定まり、「高速走行時に搭乗者にかかる重力をいくらまでに抑えるか」などの細かい仕様が定まっていく。

その仕様を作るために、開発の上流段階で、実物のクルマやエンジンなどを試作して実験を繰り返し、燃費や安全関連のデータを取り出していく。仕様書は別名「要求書」とも呼ばれる。試作と実験を繰り返して得たデータから、設計部署への「要求」が定まる。そこからCAD(コンピューター支援による設計)を駆使して設計図が出来上がる。

 

設計図が完成した後に次は「量産化試作」に入る。図面通りにできるか否かを確認する工程だ。ここでは、開発部門と、製造ライン構築を担当する「生産技術」が協力し合って量産体制を準備する。

ところが、自動運転の時代に突入して開発手法が大きく変わった。現在のレベル1(自動ブレーキなどの単一機能の自動化)やレベル2(複数の機能の自動化)の自動運転でも、仕様書を作る段階で約600万シーンを想定した開発が必要と言われる。シーンとは「映画やテレビの場面」と同じ意味だ。人が関与しない完全自動運転のレベルになると、億単位のシーンを想定しなければならない。

危険回避のためにも、天候、道路条件、運転手の技量などクルマが走行するあらゆるシーンを想定して車載ソフトウエアが開発されているのだ。このソフトウエアのボリュームを示す「行数」は、今の高級車で1000万行ほどあるとされ、実は最新の航空機よりも多い。

こうした開発にいちいち現物の試作車で対応していたら、ある外資系メーカーの試算では完全自動運転車の開発に10の6乗年(100万年)かかるという。

ベンツやBMWなどは、いち早くこうした課題に気付き、仕様書を固めるプロセスで実物の試作車を造って開発する発想をやめた。三次元のバーチャル・シミュレーションの開発ツールを用いることで、データを取り出す手法をとったのだ。高速走行中の衝突試験も、悪天候での走行試験もすべて画面上で再現できるノウハウをドイツは確立させた。こうした手法を「バーチャル・エンジニアリング(VE)」とも呼ぶ。

9月14日、フランクフルトモーターショーに姿を見せた独メルケル首相(Photo by gettyimages)