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読書人の雑誌「本」

「謝っているのに、許してくれない」を解決する正しい方法

関係修復はムリ…と悩む前に

「怒りのピークは6秒」は迷信

朝食の用意を整えてテーブルにつく。淹れたばかりのコーヒーに口をつけて、ニュースを読むためにタブレットに手を伸ばして足を組むと、先に朝食を食べはじめていた娘が、すかさず「ソレダメ」と言ってわたしの足をはたく。

娘がよく見ているテレビ番組で、足を組むのが健康に悪いということを知って以来、わたしが足を組むと必ず注意するようになったのだ。

その番組は、日常での間違った「常識」をクイズ形式で紹介しながら正しい知識を伝えるもので、週末の再放送番組を子どもに付き合って見ていると、自分の「常識」の間違いに気づかされることがある。たしかに根拠を知らないまま正しいと信じ込んでいたことや、世間で広く共有されている間違った「常識」は少なくない。

 

たとえば、わたしは怒りの研究をしているので、テレビやラジオで「怒り」について語ることがある。そのときに、「怒りのピークは6秒ですね」と聞かれて困ることがある。

この「迷信」はもはや「常識」となっているようだが、どのような根拠に基づいているのか、さっぱりわからない。少し調べてみると、(怒りを感じたときに放出されるホルモンの一種の)アドレナリン放出の産生ピークが6秒程度で、その後は減少するというのが根拠の一つとされているようだが、学術的な根拠はまったく見当たらない。

しかも、血中に放出されたアドレナリンが回収されるのにかかる時間をいっさい考慮していない。かりに6秒で産生が減少に向かうとしても、血中に残留するアドレナリン濃度はまだまだ高いことは少し考えればわかるだろう。

わたしたちの実験で、脳波や心拍、心臓の一回の拍出量や血管の抵抗値など八種類の生理反応を測定しながら怒りを誘発させたところ、どの指標を見ても3分間の測定中に怒りの反応は収まらなかった。

自分で怒りを抑える技術を学ぶアンガーマネージメントの受講者が年間18万人にものぼるというが、そこでも「怒りのピークが過ぎ去る6秒を待つように」指導されているようだ。6秒待って怒りが収まるくらいなら、そのような講習は必要ないのではないだろうか。

「怒りのピークは6秒」は、まさに「ソレダメ」なのである。こうした誤った知識が蔓延しているのは、正しい知識にアクセスできないからだ。

怒りの研究をする者として、科学的な証拠に基づいた正しい「怒りの抑え方」を伝える必要があると考え、『科学の知恵 怒りを鎮める うまく謝る』(講談社現代新書)を上梓した。

本書では、心理学者や脳科学者が地道な研究で効果を認めた、適切な怒りの抑え方を紹介している。ぜひ手に取って、エビデンスに基づく正しい怒りの収め方を知ってほしい。