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宇宙科学 ブルーバックス

時間の速さは人によって違う!? 新時代の「時間観」をご存じですか

止まっていても実は光速で「動いてる」

なぜ「時間」が存在するのか。時間はいつ生まれたのか。時間は逆方向に進まないのか。本当に時間は「流れて」いるのか−−。あまりにも身近で、日常生活で意識することはないですが、そもそも「時間」とはいったい何なのでしょうか?

最新の物理学では、これまでの私たちの感覚からはかけ離れた姿が見えてきているそうなのです。時間の本質に迫った新刊『時間とはなんだろう』の著者・松浦壮氏が、その不思議な時間の世界の一端を語ります。

時間と距離は同じ単位で測れる

先日見た夢のお話です。

どうやら見知らぬ世界の見知らぬ街に迷い込んだようです。道行く人の質素な服装から未開の地かと思いきや、建物は不思議な質感の高層建築。そして街には、仄かに青く光る無数の球体が音もなく飛び交っています。何とも不思議な風景。文字通りの異世界です。まあ、夢なんですが。

街の中を飛び交う青いやつは、どれも同じ速さで飛んでいて、大抵は物体に当たると消えてしまいますが、たまに建物をすり抜けてくるやつもいるので、規則性がよくわかりません。ただ、慣れというのは恐ろしい。その世界にいると、当たり前すぎて不思議にすら感じません。

青い球体のお陰で、この世界の人たちにはちょっと変わった習慣があります。

 

この世界では時間を「リース」という単位で数えるのですが、1リース(1秒ちょっとです)の時間が経つと、青い球体は、ざっくり言って両手を広げたくらいの距離を進みます。

そんなものがいたるところを飛び回っている様子を想像してみて下さい。時間を数えると、確実に一定距離進むものが周りにあるのです。別に時計を見なくても、青いやつがどのくらい飛んだかを見れば「1リース」が測れます。

すると何が起こるかと言うと、「1リース」と言ったとき、時間の事なのか距離のことなのかわからなくなります。と言うより、この青いやつがある限り、時間と距離を区別する必要がないのです。そんなわけで、この世界では距離も「リース」で測ります。

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さて、このいかにもSFっぽい世界観、実はそっくりそのまま私たちの世界にも当てはまると言ったら驚くでしょうか? ですが、これは事実です。青い球体を「光」だと思えば良いのです。

実際、光は私たちの身の周りに溢れる普遍的なものですし、どれも同じ速さで飛んでいます。

ただし、1リースで両手を広げた距離しか進まない青い球と比べて、光はべらぼうに速い点だけが違います。何しろ光速は秒速30万kmです。30万kmと言うと、地球を約7周半。私たちは数秒程度の時間と数メートル程度の距離を意識しながら暮らしているので、これはもうほとんど「無限に速い」と言っても構わないスピードです。

感覚的に捉えられないものは基準にはなりません。異世界と違って、私たちが長さを秒で測らないのはそのためです。

ですが、もし私たちがコンピュータのCPUのように、10億分の1秒程度の時間を意識出来るなら、異世界と同じように時間と長さを同じ単位で測っていたでしょう。10億分の1秒は、光の進む距離で言うなら30cmなので、日常のスケールと合致するからです。

逆に、時間はそのままで、宇宙スケールを意識しても同じです。例えば、地球から月までの距離は約38万kmで、光のスピードで飛ぶと1.3秒に相当します。このくらいの距離が標準的なら、光を基準にするのは大変便利です。これは天文学では普通に使われていて、例えば月までの距離なら1.3光秒と表現されます。もっと遠いところなら、例えばアンドロメダ銀河までの距離は230万光年です。これは先ほどの異世界でのやり方と全く同じです。時間と距離は同じ単位で測れるのです。

この話を聞いて、「なんだかこじつけっぽいな~」と思われた方、いると思います。当然でしょう。確かに光を基準にすれば時間と距離を同じ単位で測れるのかも知れませんが、単位が同じでも、時間は時間、距離は距離です。

それに、わざわざ光を使わなくても、新幹線を基準にしてもいいでしょうし、先日100mで9秒台をマークした桐生祥秀選手を基準にしたって良いはずです。人が勝手に決めた基準に従う義理はありません。