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何度でも言おう。「がん放置療法」は決して信じてはいけない

役に立たない万能理論がはびこるワケ

悪名高き「がんもどき理論」

がんが検診で見つかったとしても放置するのが一番という「がん放置療法」が、なぜか注目を集めている。

その先陣を行くのが近藤誠氏の「がんもどき理論」である。近藤氏は『患者よ、がんと闘うな』(文藝春秋、1996)、『がん放置療法のすすめ』(文春新書、2012)、『がんより怖いがん治療』(小学館、2014)などの著書で、がんには本物のがんと“がんもどき”があると主張する。

本物のがんは抗がん剤などの治療は有効でないので放っておくしかなく、“がんもどき”はそもそも転移しないので放っておいても問題ない――だから、がんは放置するのが一番よいと唱えている。

この「がんもどき理論」は典型的な万能理論である。万能理論とは、一見うまく説明できているように見えるが、将来を予測しないので、実際には何の役にも立たない無用な理論である。

「がんもどき理論」に従えば、がんが先進医学によって治療されても、それは本物のがんではなくて“がんもどき”だったのだ、と言い逃れできるし、先進医学を拒絶して放置した結果、転移のすえ死亡しても、それは本物のがんなのでたとえ治療しても同様の結果だった、と言い訳できる。

じつは“がんもどき”がしっかり定義されていれば、「がんもどき理論」は比較的容易に否定できる。“がんもどき”と判定された複数の症例について、放置する症例群と医学的措置をほどこす症例群とに分けてそれぞれ追跡調査し、延命年月を比較調査すればよいからである。

 

ところが近藤氏は、早期がんの中にも本物のがんと“がんもどき”があるとし、さらに“がんもどき”の一部には後から本物のがんに変化するものもあるという(前掲『がんより怖いがん治療』など)。これでは何が“がんもどき”なのかがはっきりしない。

一方で、近藤氏が『抗がん剤は効かない』(文藝春秋2011)などでたびたび批判している抗がん剤治療には、実際のところ明確な治療効果がある(国立がん研究センター内科レジデント『がん診療レジデントマニュアル』医学書院2010)。

なんでも後づけで説明できてしまう万能理論は、医学をはじめとした科学の発展を無視するのに都合がいい。「がんもどき理論」を信じる前に、それが「本物のがんは医学では治療できない」という、根拠の薄い暗黙の前提に立っていることを認識すべきである。

がん治療は難しい課題であるが、医学は着実に前進しており、その暗黙の前提は明らかに誤っている。