現代新書

「読書はなんの役に立つのか」に対する、ひとつの答え

誰も教えてくれなかった『本の読み方』
橋爪 大三郎 プロフィール

テーゼと独断

論理。

定義。前提。

それに加えて、本に何が書いてあるかというと、テーゼです。

テーゼとは、日本語で言えば、命題。大事なこと、です。こう思います、と大事な主張が書いてあったら、このひとはこう思っているのか、とわかる。

でも、なぜこう思っているのかと、気になりませんか。

論理的に書いてあるなら、前提から論理的に導けることが、書いてある。みんな気がつかないかもしれないけれども、こういう前提に立つと、こうなるんですよ。それを、みんなに教えてくれている。数学でいう、定理ですね。

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そういう脈絡がともなわないのに突然、こうです、と書いてあるかもしれない。論理が追えないのに、そう書いてあったら、それはどういう性質の命題か。独断です。独断は、ドグマともいう。なぜ著者がそう考えるか、わからない。読者はそれに、賛成したらいいのか、反対したらいいのかもわからない。論理的にきっちり書いてある本に、あまりこういうことはないんだけど、そうでない本には、よくある。

そういうテーゼには、賛成するも、反対するもない。そもそもそれが、著者の意見であるかどうかがまず疑問。本のほかの部分から、浮いているのだから。そんなテーゼがあったら、少なくとも、そこはマークしておきましょう。

導出と矛盾

このような、命題と命題の関係を考えてみる。

まずひとつは、導出の関係。導出とは、いっぽうの命題からもういっぽうの命題が導けること。理屈を追っていくとこうなりますね、という関係です。

 

もうひとつの、大事な関係は、矛盾。矛盾とは、ある主張の、肯定(そうです)と否定(そうでないです)と、両方の命題が成り立ってしまうことです。

数学では、矛盾を含むシステムは、数学を破壊するというので、矛盾はあってはいけないことになっている。

われわれの読む、そして書く本には、しばしば矛盾が含まれる。

堂々と、矛盾を大っぴらに書いているのは、ヘーゲルですね。

ヘーゲルは言います。世界は矛盾でできている。矛盾でできているからこそ、世界は変動する。だから、ダイナミックだ。これを弁証法という、と。

ここまで開き直ってしまうのだから、ヘーゲルの本(『精神現象学』とか、『エンチクロペディ』とか)は、矛盾だらけ。でも、確信犯だから、そういうことは気にしない。

なぜヘーゲルについてのべたかと言うと、マルクスが、ヘーゲルを下敷きにしているから。

マルクス主義というものがある。ヘーゲルを下敷きにしているから、マルクス主義は、弁証法でできているわけ。

弁証法がなぜそこまで大事か。

マルクス主義は、世界は、階級闘争でできている、と考える。階級って、矛盾・対立の関係なんですね。資本家階級と労働者階級がいて、それらが闘争しつつ、やがて次の社会に脱皮して(マルクス主義の用語で言えば、「止揚」されて)、社会主義、共産主義になるんです。矛盾こそが、歴史の原動力である。

こういう本がしばらく前まで、堂々と、大手をふって通用していた。

このように、人文系の本には、矛盾が出てくる場合もある。数学と違って、矛盾しているからこの本は価値がない、とすぐには言えない。その点が難しい。形式論理で必ずしもできていない人文系の本は、読み方が難しいのです。

でも、少なくとも、矛盾とはどういうものか、知っていないと読めない。矛盾が、議論のなかでどういう役割を果たしているか、理解しながら、読みましょう。

頭の中にファイルを作る

というふうなことを考えながら、どんどん読んでいって、著者の思考を、自分の頭の中に組み立てる。

ある著者の本を読んだら、頭の中にその著者の、ファイルを作るのです。自分の頭なんだけど、コインロッカーみたいに、その人のためのスペースを作ってあげて、その人に仮住まいしてもらう。本を読み終わると、ここに居てもいいですよ、となるわけです。

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マルクスを読んだら、マルクスが住んじゃう、頭のなかに。マルクスは、私じゃない。私は、マルクスじゃない。でも、私の頭のなかにマルクスがいる。これが、本を読み終わった状態です。

著者の対話

さて、この後、サミュエルソンを読んだとする。サミュエルソンは、有名な経済学者ですね。近代経済学なので、マルクスとは立場が違う。読み終わると、サミュエルソンのファイルができて、頭の中にサミュエルソンがいる。

どうなると思います?

私がなんにもしなくても、マルクスとサミュエルソンが、話を始める。止めようと思っても、止められない

この状態は、あんまり進んじゃうと、ガヤガヤとやかましく、二人の声が実際に聞こえてきたりして、ちょっと危ない状態になるかもしれない(笑)。

ま、ふつう、そうはならないな。静かにガヤガヤしてもらおう。

彼らの本を読むまでは、マルクスがいるらしいね、サミュエルソンがいるらしいね、同じ経済学だけど違う主張をしていて、仲がよくないらしいね、だけの感覚でしょう。これはただの、知識である。

でも、本を読み終わってしまうと、マルクスとサミュエルソンの関係が、自分の問題になるわけ。この感じ、わかりますか?

二人がケンカする場合も、あるかもしれない。最悪の場合、サミュエルソンがマルクスに、キミ、ここから出ていってください、と言う。マルクスは、じゃ、さよなら! って引っ越したりすることになるわけです。

<この続きは、『正しい本の読み方』で!>

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