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トランプが言う「あらゆる選択肢」は実際、どのくらい現実的か

対北戦略、意外と手詰まりかも…
海野 素央 プロフィール

9月6日に習主席と電話協議を行ったトランプ大統領は、協議の後「習主席は私に100%賛成している」と語りましたが、習主席の「対話と交渉」の立場は一向に変わりません。いずれトランプ大統領が中国に業を煮やし、見切る可能性も排除できません。その時、テーブル上のカードがまず1枚消えることになります。

 

ロシアゲートも効いてきた

2つ目のカードがロシアです。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、同日極東ウラジオストクでの韓露首脳の共同記者会見で、北朝鮮の核保有国の地位を認めないとしながらも、「朝鮮半島問題は制裁や圧力だけでは解決できない」と述べて、外交手段の重要性を強調しました。安倍首相との共同記者会見においても、その立場を崩していません。

米中関係とは異なり、米ロ関係にはトランプ政権そのものを揺るがす問題が存在しています。2016年米大統領選挙で、ロシア政府とトランプ陣営が共謀した疑惑「ロシアゲート」です。

この疑惑をめぐり、米ロ関係はきわめて悪化しています。プーチン政権はロシア駐在の米外交官及び職員の半減を求め、それに対してトランプ政権はサンフランシスコのロシア総領事館を閉鎖しました。こうした報復措置の応酬が行われている状況下で、ロシアが米国に北朝鮮問題に関して積極的に協力するとは到底思えません。

それに加えて、現在トランプ政権内部では、特別検察官による捜査も進んでいます。ここでトランプ大統領がプーチン大統領に接近・協働する姿勢をみせると、米国民に「やはり共謀していたのか」という印象を与えてしまいます。このように、ロシアゲート疑惑が北朝鮮問題に影を落としているため、トランプ大統領にとってはロシアというカードも有効ではありません。

3枚目のカードが、軍事オプションです。米議会では、上院軍事委員会の重鎮リンゼー・グラム上院議員(共和党・サウスカロライナ州)が、「本土優先論」を主張しています。グラム議員は、「北朝鮮が核を保有すれば、いずれ必ず米国本土を攻撃する」と信じています。彼のような米国の「本土優先論者」は、「たとえ米国の先制攻撃によって同盟国である日本・韓国及び周辺地域に被害が及んでも、米本土の防衛が最優先なのだから北朝鮮を叩くべきだ」という立場をとっているのです。

トランプ大統領は、口先では「日本と100%一緒にいる」と述べていますが、 大統領選挙期間中の演説で日本を批判していたことからもわかるように、同盟国に対する意識は薄いのが現実です。大統領にとって同盟国は、「米国第一主義」を実現するための単なる「取引先」ということです。

ですから、仮に米国が北朝鮮の核施設に対するピンポイント攻撃ないし全面戦争に踏み切ることを考える場合、米国にとって鍵を握るのは日韓よりも中露の動きです。中露両国は、米軍が北朝鮮との国境近くに進駐する事態を強く懸念しています。武力行使となればこの両国を巻き込む可能性は排除できず、この点からも軍事オプションにはブレーキがかかります。

4枚目のカードとして、北朝鮮の核保有を容認し、同国と共存するという選択肢があります。オバマ前政権の大統領補佐官(国家安全保障問題担当)スーザン・ライス氏は、この選択肢を支持しています。仮に米朝首脳会談が実現した場合、トランプ大統領が「ジャパン・パッシング(日本無視政策)」を行い、北朝鮮を核保有国として認めるというシナリオも完全には排除できません。ただ、オバマ前政権に対する嫌悪感がきわめて強いトランプ大統領が、オバマ氏の元側近の意見を心情的に受け入れることはないでしょう。