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トランプが言う「あらゆる選択肢」は実際、どのくらい現実的か

対北戦略、意外と手詰まりかも…
海野 素央 プロフィール

「似た者同士」は相性が悪い

以上のような米国民の世論を踏まえて、トランプ大統領が北朝鮮との交渉に乗り出す可能性はあるでしょうか。トランプ・金両首脳による直接対話、そして平和的解決の実現が望ましいのはもちろんですが、現段階ではその可能性は低いと言わざるを得ません。理由を3つ挙げましょう。

第1に、米朝両国の間には言うまでもなく深い溝があります。北朝鮮は無条件で交渉を行うことを求め、一方で米国はミサイル発射を止めるならば交渉のテーブルにつく用意があるというシグナルを送っています。つまり両国は、交渉に入る前段階で、すでに手詰まり状態に陥っています。

 

第2に、北朝鮮による核実験の直後に金委員長と対話すれば、トランプ大統領は米国民、とりわけ彼の支持層から「北朝鮮の脅しに屈した弱いリーダーだ」と認識されるからです。この段階での両国の政府高官による直接対話は、すなわち米国の大きな譲歩とみなされるリスクが高いのです。

第3に、トランプ大統領にとって金正恩・北朝鮮労働党委員長は、決して与しやすい相手ではないからです。トランプ大統領は、オバマ前大統領やヒラリー元国務長官のように、「理論的で行動が予測可能な人物」に対しては非常に強く出ることができます。しかし、金委員長のように予測不可能で、相手を威嚇し、しかも自己愛が強いといった、いわば「自分と似たタイプ」と戦うのはあまり得意ではないのです。

このような前提条件を踏まえて、ではトランプ大統領が言う「あらゆる選択肢」は内実の伴ったものか否か、順に確認してゆきましょう。

習近平も弱腰にはなれない

まず、現在のトランプ大統領にとって事実上「第一の選択肢」となっているのが、「中国に、北朝鮮へ圧力をかけさせる」という戦略です。

トランプ大統領が北朝鮮問題解決を中国にアウトソーシング(外部委託)したいと考える主な理由は、北朝鮮の貿易額が対中国貿易で約9割を占めている中で、中国ならば大きな影響力を行使できると判断したからです。その背景には、トランプ大統領の特徴である「コスト・効率・公平」の「3つの『こ』」という思考様式が存在します。

大統領選挙期間中もそうでしたが、トランプ大統領は、常にこの「3つの『こ』」を判断基準にしています。例えば、多くの時間と人手を費す戸別訪問や、多額の選挙資金が必要になるテレビ広告よりも、コストがかからず瞬時に効率よく拡散できるツイッターとテレビ出演を重視しました。政策面では、「NAFTA(北米自由貿易協定)は米国にとって公平ではない」という議論を展開しました。

この「3つの『こ』」の思考様式は、北朝鮮問題にも適用されています。米国がコストをかけずに効率よくこの問題を解決するためには、北朝鮮と関係が密接な中国による影響力行使が最も効率的であると考えたのです。対米貿易で儲けているのだから、米国に代わり中国が北朝鮮問題に取り組むのが「公平」であるという、独自の「公平論」をもってトランプ大統領は習近平国家主席に臨んだのです。

しかしながらその中国は、北朝鮮に対する石炭・鉄鉱石及び海産物などの全面禁輸を含めた追加制裁には賛成しても、石油禁輸までは応じないとみられています。10月に共産党大会を控えた習主席にすれば、「トランプ大統領や国連安全保障理事会の指示通りに動いている」という弱腰の姿を見せることは回避しなければなりません。習主席が北朝鮮に対して、本気で制裁に動かない理由のひとつはそこにあります。