〔PHOTO〕Hod Lipson
AI ロボット

人工知能が「意識を持てるか」という超難問に答える

100年後の世界に向けた哲学

ロボットは意識を持てるのか

人工知能(AI)が社会に与える影響を議論する上で、常についてまわる疑問に「ロボットは意識を持つようになるのか」というものがある。

私自身は、もともと脳から意識がどうやって生まれてくるのかを研究してきた。私が意識研究に没頭してきた20年間ほどの間に、神経科学の観点からはかなり意識の理解は進んだと思う。

しかしながら、ロボットやAIといった工学的な研究分野でも意識と関連の深い研究は行なわれてきていた。ただ、分野が少し違うだけで、研究者同士は実はあまり理解できていない状況にある。

私がイギリスの大学を辞めて日本に帰ってきて立ち上げたベンチャー「株式会社アラヤ」では、AIの技術を集結して「人工意識」を作ろうとしている。かなり無謀な試みに思えるかもしれない。

だが、戦略を詳しく話すと、それほど突飛なことでもないと納得してくれる人たちもいる。現在ではCRESTという国のプロジェクトにも採択してもらい、素晴らしい研究チームができている。ここから、単なる既存技術の応用ではない、次なる世代のAI技術を生み出したい。

アカデミアの枠、さらには神経科学の枠を飛び出し、いまではAIを含む様々な分野の知識を意識研究に総動員するようになった。特に、「意識を理解する」という目標を、「意識を作る」に変えた。すると、意識を機能的に定義するにはどうしたら良いかと考えるようになり、いくつかの気づきがあった。

そのひとつが、ロボットを作っている人の「意識」に対する洞察の深さだ。今回インタヴューしたのは、コロンビア大学のホッド・リプソン教授。AIの社会への影響について世界中の有識者たちと議論をするために企画しているシンポジウム「AI and Society (10月、東京開催)」でも講演いただく予定だ。

彼は2006年に、ある意味では「自己意識」を持ったロボットを実装し発表している。ロボットが「自己意識」を持つとは、どういうことなのか。このインタヴューを読むことで、意識を持ったロボットについて少しはイメージできるのではないだろうか。

リプソン教授

もっとも深遠な「意識の問題」

金井:リプソン教授のご研究は、2006年にサイエンス誌に 「自己モデルをもったロボット」を発表されて以来注目していました。

このような「自己意識」とも呼べるような仕組みを持ったロボットを作った背景にはどのような考えがあったのでしょうか。もともと意識に興味を持っていらっしゃったのでしょうか。

 

リプソン教授:何千年もの間、人は「意識とは何か」「自己とは何か」について議論してきました。しかし、これらの概念について数多くの議論をすることで、言葉によってますますわからないものになってしまいました。

「意識は現実を認識するためのキャンバスである」と言われることがありますが、我々の使っている日常的な言葉は、意識や自己が何であるかを議論するにはやや正確さに欠けるのです。

意識の問題は、我々の時代に残っている未解決問題の中で、もっとも深遠な謎だと思っています。というのは、意識はまさに人間の本質が何であるかという問題に関わるからです。意識は人間を他の動物と隔てている特徴です。意識があるからこそ、人間はクリエイティブなことや文化を育むことができるのです。

意識は、人類が解明すべき基本問題だと考えています。人類は数千年にわたりこの問題に答えを出そうと議論を続けてきました。しかし、いまだに意識の物理学的な理解には到達していません。神経科学もこの問題に取り組んで来ましたが、まだ進展は限られたものでしかありません。

人が様々な思考をしている状態でMRIを通じて脳活動をみることで、どの部位が活動しているかなどはわかってきていても、意識の解明にはまだまだほど遠いと言わざるを得ません。

ロボット研究は、意識という現象について別の視点をもたらしてくれます。人間レベルの意識を作るのはまだ先のことですが、ロボットに何らかの意識をもたせようという試みは、これまで曖昧な概念で議論されてきた意識を、もっと具体的な形ものに変換してくれます。

そういった考えから、単に言葉で意識について話すだけではなく、物理的に意識を実在するロボットに実装する研究が始まりました。どこまで意識に迫れるか見てみようということです。

これが、我々の研究の始まった背景です。すでに、それなりの成果もでていて、それがあなたの見たロボットなのです。