グローバリズム 自由貿易

日本よ、いい加減、現実を見よう 自由貿易が社会を傷だらけにする

世界も国内も、グローバル化で分断された
柴山 桂太 プロフィール

あるいは法人税引き下げ競争を例に出しても良い。1980年代初頭から、世界中の法人税率は明らかに低下している。企業が税金の安い国に逃げるのを防ぐために、一つの国が税率を下げたら別の国も追従せざるを得ない。

反対に労働者は、税を逃れる方法がない。法人税は下がり、消費税や付加価値税は上がる。国際的に移動出来る資本から、移動出来ない労働者に税の負担が移ってしまう。グローバル化が進むと、資本にアクセス出来る者の発言力が大きくなり、労働者の発言力は小さくなる傾向にあるのだ。

 

なるほど、自由貿易で消費者は安くて高品質な財やサービスを手にできるようになったかもしれない。しかし、消費者は労働者でもある。「新グローバル化」の下で進む国際分業は、先進国の平均的な労働者を不利な立場に追いやってもいる。単に所得が増えないだけでなく、政治的な発言力も低下する一方だ。

他方で、新興国の労働者は着実に所得を増やし、国内の富裕層は着実に富を増やしていく。自由貿易が利益をもたらすという一般的な見方が正しいのだとしても、利益の分配は、国際的にも国内的にも、先進国の中間層にとって厳しいものになっている。反自由貿易の機運の高まっている背景には、そのような事情がある。

日本もグローバリズムへの幻想を捨てよ

この点、昨年のアメリカ大統領選挙は示唆的だったと言える。旋風を巻き起こしたのはトランプとサンダースだが、トランプは中間層の富が新興国の労働者に横取りされたと力説し、サンダースは中間層の富がトップ1%に吸い取られたと強調していた。二人とも、過去20~30年のグローバル化の所得分配が不公平だと訴えて、人気を獲得したのだ。

サンダースとプラカード民主党の大統領候補サンダースの背後にも「アメリカの労働者」「職を守ろう」のプラカードが(Photo by Getty Images)

もちろん、私個人は「国境に壁を」といった、彼らの個々の主張に賛同しているわけではない。しかし、確認するべきは、自由貿易が国際社会と国内社会の至る所に歪みと亀裂を作り出してしまった、という歴然たる事実だ。

政治の不安定化は、アメリカだけで終わることはないだろう。先進国は遅かれ早かれ、似たような困難に直面していくことになるはずだ。そして保護貿易の機運は、それが成功するか失敗するかに関わらず、これから高まっていくはずである。

日本では、今のところアメリカや一部の欧州諸国に見られるような、極端な反グローバル化の機運は見られない。だが、この先はどうか。中間層の没落は、先進国全体で起きている現象であり、日本もその例外とはなり得ない。

もちろん、中間層が没落した原因は、グローバル化の他にもある。技術進歩、産業構造や社会規範の変化など、多くの研究者がさまざまな要因を指摘している。しかしグローバル化がもっとも重要な理由の一つであることは、今や否定し得ない事実である。

「あらゆる国と人々がグローバル化の利益を分かち合える」世界経済が理想であるというBRICs首脳会議の宣言は、字面だけを見れば正しいことを言っている。しかし、その実現は決して容易なことではない。

自由貿易やグローバル化がもたらしてきた、負の側面に目を向ける。日本が次の針路を定めるには、まずそこから始めるしかないだろう。

柴山氏の近著なぜポピュリズム運動が世界に広がるのか? 真の「冷戦後」が始まった? さらに深い視点から自由貿易やグローバリズムの破綻に切り込む柴山氏の近著