グローバリズム 自由貿易

日本よ、いい加減、現実を見よう 自由貿易が社会を傷だらけにする

世界も国内も、グローバル化で分断された
柴山 桂太 プロフィール

低賃金サービス業に追いやられる先進国の中間層

先進国の人々がグローバル化に幻滅しているのは、端的に所得がほとんど増えていないからである。経済学者のB・ミラノヴィッチの推計では、1988年から2008年までの20年間で、実質所得を大幅に増やしたのはグローバルな上位1%と、グローバルな上位40~50%にあたる中国・インドなどの都市労働者で、先進国の大多数の労働者(グローバルな上位10~20%層にあたる)はその恩恵にあずかっていない。

先進国の中間層は没落し、グローバルな富裕層とグローバルな中間層が隆盛したのである。

 

なぜ、そうなったのか。いくつもの説明が考えられるが、大きな要因は国際貿易の質的変化だ。

経済学者のR・ボールドウィンは、20世紀後半から始まった生産システムの世界的な変化を(それ以前との質的違いを強調する意味で)「新グローバル化」と呼んでいる。20世紀中盤までの国際分業は、先進国が工業化し、途上国が脱工業化(農産物や原材料の生産に特化)するというかたちで進んでいた。

ところが1980年代以後は、それまで先進国に集中していた工業の大部分が、賃金の安い新興国へと流れていった。生産拠点の海外移転、いわゆるアウトソーシングである。

その結果、新興国が工業化し、先進国は脱工業化(ハイテクや一部サービスに特化)していくという、全く新しいタイプの国際分業が見られるようになったのである。

工業化の進む新興国では、比較的幅広い層の都市労働者が恩恵を受ける。一方で、先進国では先端的なハイテク産業に関わる知識労働者が恩恵を受けるが、その割合は限られている。大多数は都市部の低賃金サービス労働に従事することになり、当然ながら所得の格差は広がることになる。

オキュパイ・ウォールストリート格差是正を訴える「オキュパイ・ウォールストリート」運動は毎年のように続いている(Photo by Getty Images)

以上は、ごく単純化した説明に過ぎないが、なぜ先進国の平均的な労働者がグローバル化の「負け組」になったのかを分かりやすく示している。

中間層の発言力を奪い、税負担を増やすグローバル化

もう一つ、資本と労働の力関係が変化したという点も無視できない。

投資に関わる国境の壁が大幅に削減されたことで、企業や投資家は資本を自由に動かせるようになった。しかし労働者はそうではない。国境を跨いで活躍の場を求めることのできる層は、全体のごく一握りだ。多くは、自分の住み慣れた国を簡単に離れることはできないし、離れたいとも考えていない。

経済学者のD・ロドリックは、企業や資本の国際移動がもたらす国内政治への負の影響を問題視している。アウトソーシングが進むと、先進国の労働者の立場はどうしても弱くなる。労働者の権利が弱い国に仕事を移す(あるいは「移す」と脅す)ことで、経営者や投資家は譲歩を引き出すことができるからだ。