防衛・安全保障 地震・原発・災害

東電を訴えた米兵はどれほど被ばくしたのか?同行記者の視点

「トモダチ作戦」の悲劇
山田 敏弘 プロフィール

客観的にみても、現地での米軍の対応は冷静だった。少し余談になるが、むしろ冷静さを失っていたのは、メディアの一群だった。

事故後直ちに東北に入り、福島原発事故を報じていた米テレビ局CNNのスター記者のアンダーソン・クーパーも、中継で、「風向きはどうなっている」「ここから福島原発までは何キロだ?」と取り乱す様子が放映されて話題になった。

また筆者以外にもう1人、米有力紙の米国人記者がHASTに従軍していたが、この記者は現地に入って2日目に突然逃亡。民間機で一刻も早く大阪に逃げるために東北の空港に向かっていたことが後に判明したが、私たちに「仙台にいる部隊には被ばくの兆候はない」と何度も述べていた記者担当のアイゼンバイザー中尉がパニックになったのは言うまでもない。彼は後にこの件で始末書を書かされたと聞いた。

とにかく、著者は淡々と放射線量を調べてモニターしていた米軍の姿を目の当たりにしていただけに、米兵らが東京電力を訴えたというニュースは意外だと思ったのだ。あれだけのチェックを実施し、それで問題ないと彼らが判断したからこそのオペレーションだったはずなのだが…。

「証拠はない」との調査結果もある

81ページに及ぶ訴状によれば、今回、カリフォルニア州南部地区の連邦裁判所へ訴えた原告団は、主に3月11日の直後にトモダチ作戦のために福島県の沖合洋上にいた原子力空母ロナルド・レーガンに乗船していた海軍兵たちだ。

 

原告らは被ばくによって「白血病や潰瘍、胆嚢除去、脳の癌や脳腫瘍、睾丸癌、機能不全性子宮出血、甲状腺疾患、胃腸障害、出生異常、死」などの影響が出ていると主張している。

原告団は、米軍の責任は問うていない。米軍のこれ以上ないぐらいの放射線対策を知っていればそれも当然だと言える。事実、福島原発の北東160キロにいたロナルド・レーガンに乗船し取材をしていた知人の米国人記者は、当時、空母でも松島同様に常に放射線のチェックが行われていたと話していた。

Photo by iStock

米軍は3月14日に、ロナルド・レーガンが航行する地域の空気中に低レベルの放射線を検知し、直ちに位置を変えたが、後の米議会の調査でも、当時のジョナサン・ウッドソン衛生問題担当国防次官補が、「被ばくのレベルはかなり微量」とし、「被ばくで病気になったとする客観的証拠はない」との調査結果を出している。