企業・経営 週刊現代

銀行が有名企業の「役員人事」に反対しまくっている

ドキュメント「議決権行使」
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そもそも、ひとつの機関投資家の投資先は1000社を優に超え、1社につき株主総会での議題は10以上がザラ。

今夏の株主総会だけでも数千から一、二万件の議題の賛否を決断しており、一定の条件を設けないと期限内にすべてを判断できないという事情もある。

もちろん、機関投資家の担当者たちは企業側と面会をして、その面会内容を踏まえたうえで賛否を変更する地道な作業もしている。

ただ、「時間的にも人員的にも限界がある。結果、大半は決められた条件のもと一律に判断をせざるを得なくなっているわけだが、これがいま『新しい問題』を浮上させている」と、元日本興業銀行金融法人部長で経済評論家の山元博孝氏は指摘する。

「たとえば、議決権行使にあたって、『社外取締役の人数が少ない会社の取締役人事には反対する』という旨の基準を設ける機関投資家が多い。

人事が否決されることを回避するため、企業の中には急いで社外取締役を選任したところもあるようだが、果たしてそれは日本企業にとっていいことなのか。すでに日本では社外取締役が名誉職化して機能していないケースが散見される。

議決権行使が強化されることで、こうした『無意味な社外取締役』がさらに急増しかねない」

 

得をするのは株主だけ

実はこのように議決権行使の「弊害」を指摘する専門家や実務経験者は少なくない。元サムスン電子常務で経営学者の吉川良三氏も言う。

「議決権行使の条件としては『赤字を3年続けてはいけない』、『ROE(株主資本利益率)が高くなければいけない』とあるが、こうした数値目標を企業に一律に求めるのも非常に危険です。

たとえば、これから伸び盛りの企業は利益を犠牲にしてでも投資にカネを回すのが正解だが、そうした積極経営も取りづらくなってしまうからです。実際、米アップルやグーグルも、成長する段階で投資家が温かく見守ってくれたからこそ現在がある。

いまの議決権行使はそうした将来有望な企業の芽を摘み、経営を委縮させかねない」

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議決権行使の厳格化は、不祥事の責任を取らない経営者や取締役会にも出ずに高給を得る役員などを排除できるメリットはある。が、実はそれ以上の「デメリット」を生じさせかねないというわけだ。すかいらーく創業者の横川竟氏も言う。

「そもそも経営者としての経験から言うと、株主の声をそのまま取り入れて経営しているだけでは、新しい価値などを生み出すことはできない。

一時的に利益が出て、株価が上がることはあるだろうが、企業の根幹となる人づくりなどはなおざりになり、結局は経営難に陥るのが結末でしょう」

機関投資家から言われるがままの経営では、企業は独自性を失うだけ。そうして会社が壊れれば投資家たちは一転、株を売り払いにかかってくるのも目に見えている。

「結局、議決権行使の厳格化でだれが得をするのかと言えば、『会社は株主のもの』と考える投資家たちです。散々企業に文句をつけて株価を釣り上げて、企業がダメになればポイ捨てする。

ヨーロッパではそうした短期的利益を求める投資家に企業経営が左右されることが問題視され、むしろ株の長期保有者に多くの議決権を与える制度導入の流れもある。日本はそうした株主の質を重視する世界に逆行している」(早稲田大学法学学術院教授の上村達男氏)

時代遅れの「株主重視策」が日本にやってきて、経済を根本から壊そうとしている――。

「週刊現代」2017年9月16日号より