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人口・少子高齢化 ライフ 週刊現代

これから5年以内に起きるマンション建て替えの「天国と地獄」

新築同然かボロボロか…運命の分かれ目

40年前、ローンを組んでようやく買ったマンション。設備が古くなり、不便も出てきた。じゃあ、みんなで建て替えを検討しようか――。そこで初めて発覚する、難題の数々。人生を左右する運命の分かれ目だ。

四谷コーポラスの場合

日本で初めての民間分譲マンション「四谷コーポラス」をご存じだろうか。'56年に売り出され、築年数は60年を超える。

JR四ツ谷駅から北へ向かって5分ほど歩く。大通りから少し入ると、その独特な小豆色の壁が見えてくる。さすがに築61年だ。壁の一部は黒ずみ、窓に取り付けられた手すりには錆が目立つ。

日本初の民間分譲マンションとされる「四谷コーポラス」(1956年竣工)

外階段の横には、〈建築計画のお知らせ〉と書かれた看板が設置されている。このマンションは、9月から建て替え工事に入った。なぜ「困難」とされる建て替えを実現できたのか。

「住民の方々の管理組合の総会への参加率が総じて高く、建て替えに対する当事者意識が強い。しかも、長年にわたってコミュニティが形成されており、組合の理事長、理事らへの信頼も非常に篤い。そのおかげだと思います」と言うのは、建て替えに関わった旭化成不動産レジデンス開発営業本部の花房奈々氏である。

 

花房氏が建て替え決定までの経緯を振り返る。

「直接のきっかけは、'13年に耐震構造診断を行ったことです。補強工事に必要な費用を試算する中で、マンションの再生検討委員会が発足し、建て替えが選択肢として浮上してきました」

当初は不安を抱える住民もいた。委員会のメンバーは、マンション内で何度も住民説明会を行って様々な選択肢を比較検討。建て替えか大規模修繕かといったアンケート調査を行った。

委員会は「建て替えありき」で議論を進めるとうまくいかないと考え、ギリギリまで様々な選択肢を考慮した。建て替えとなれば費用負担も重くなる。

「古い物件だけあって、数十年前に結婚して住み始めてから一度も引っ越したことのない住民や、マンションで生まれ育ち、引っ越しの経験のない住民もいるんです。『本当に大丈夫か』『仮住まいをどうしたらいいか分からない』と不安の声もあった」(住民のひとり)

住民の考えがまとまり、建て替えの可能性が高まってからも、ゼネコン、デベロッパーなど数社に資料請求し、途中からは信頼できるコンサルタントも入れた。

'16年10月には、複数社でコンペを行い、旭化成不動産レジデンスをデベロッパーとして決めた。'17年3月、建て替えが正式決定した。

「この物件は、もともと一戸が70平方メートルあまりと広く、建て替え後の部屋面積を縮小する選択もでき、費用負担を抑えることができた。現在の28戸を51戸に増やして一部を分譲し、事業費に充てます。また、個別相談で住民の方の声も反映し、33パターンの間取りを設計しました」(前出・花房氏)

完成は'19年の予定。現在の住民の大部分は再入居する。最も古いマンションは、いま新しく生まれ変わろうとしている。

だが、こうして建て替えが進む「幸運」なマンションは極めて少ない。

現在、日本には600万戸以上のマンションがあり、築30年超の物件は100万戸を超えている。これから5年もすれば、建て替えの問題に直面する物件が激増することは必至だ。

ところが、これまで建て替えに成功した事例はわずか200件超。住人の5分の4以上の賛成が必要であるという条件が重くのしかかり、ほとんどの物件は建て替えをできていない。

建て替えに成功すれば住環境は大幅に改善する。後述する通り、うまくいけば建て替え費用すらかからない。

一方、建て替えに至らない場合は悲惨だ。古い設備とボロボロの環境に修繕費も追いつかず、最悪の場合スラム化したマンションで生活せざるを得ない。

いまマンションに住んでいる人は、どんなに関係ないと思っていても、建て替えの成否によって、「天国行き」と「地獄行き」に分かれることになる。

では、建て替えに成功するのはどんな物件か。