国際・外交 中国

北朝鮮より大きな危機が、5年以内に日本を襲う可能性

中国に「乱世」がやって来る…
近藤 大介 プロフィール

全ては王岐山の去就次第

さて、それでは私はどう考えるかということを述べよう。

今回の共産党大会の主役は、もちろん習近平総書記だが、もう一人キーパーソンがいる。それは、この5年間の習近平体制を支えてきた最大の功労者である王岐山・中央規律検査委員会書記だ。現在の習近平政権は、「習王政権」と言っても過言ではない。

その王岐山書記が、来月の共産党大会をもって引退すると、私は見ている。少なくとも9月初旬の現段階において、習近平総書記は、王岐山書記の留任を決めきれていない。その意味では、前述の朝日新聞や読売新聞の報道の通りだ。

実は王岐山書記は、すでに昨夏の北戴河会議で、2017年秋の第19回党大会をもって引退したいと表明している。私は今年2月に上梓した『活中論』で、そのことを記している。

〔PHOTO〕gettyimages

1948年7月生まれの王書記は、この7月に69歳を迎えた。江沢民政権が1997年に定めた「潜規則」(不文律)によれば、党大会の開催時に68歳になっている幹部は、全員引退である(七上八下)。このルールに従って、王書記は静かに身を引こうとしたのだ。

私が昨年聞いたのは、次のような話だった。

「王岐山は『18大』(2012年11月の第18回共産党大会)以降、自分がどれだけ多くの幹部を失脚させてきたか、その恨みを熟知している。だから自分が『19大』をもって身を引くべきだと決意を固めたのだ。

もともと中国史が専攻だった王岐山は、自分を張良に見立てているのではないか。張良は『漢初三傑』と言われた漢王朝成立時の最大の功労者の一人だったが、王朝が成立すると、劉邦皇帝の再三の願いを断って隠居した。だが、他のほとんどの功労者たちは、論功行賞を求め、粛清されていったのだ」

その後、習近平総書記は、すさまじい巻き返しに出た。昨年10月下旬の「6中全会」(第6回全体会議)で「党中央の核心」という地位を得ると、すぐさま李克強首相の腹心である楼継偉・財政部長(財務相)をクビにした。これは党内では、李克強首相の続投はないことを示したものと捉えられた。

今年の春になって、ついに王岐山書記が、習近平総書記の説得を呑んで、来年3月からの首相就任を受諾したという噂が流れた。

いまから2ヵ月前の7月3日、王岐山書記は、「貧困分野監督執行規律問責活動テレビ電話会」なる会議を開いた。これは全国3000ヵ所以上、計12万人余りの規律検査監察幹部たちとテレビ電話でつないで講話を述べるというものだった。この史上最大規模の会議を中国中央テレビ(CCTV)に大々的に報じさせたことで、「これは王岐山の首相就任宣言に違いない」と、いよいよ党内では捉えられたのだった。

事実、8月の北戴河会議でも、習近平総書記は、その方向に持って行きたかったことだろう。

 

ところが、そこへ3つのグループが立ちはだかった。第一に、この5年近くでほぼ壊滅状態に追い込まれた江沢民派。第二に、今後5年間で同様の仕打ちを受けるリスクが高いと見た胡錦濤派(団派)。そして第三に、独裁を許した毛沢東時代の悪弊を身に沁みて知っている長老たちである(一部重複もある)。

これは私の勝手な推測だが、王岐山を抜擢した最大の恩人である朱鎔基元首相(88歳)が、最後は王岐山本人を説得したのではないか。「ここは定年の習慣に従って身を引くべきだ。そうしないと、周囲が敵だらけの中でいつか足元をすくわれ、晩節を汚すことになる」というわけだ。

実際、王岐山書記は、「中南海」に住居を構えない唯一の常務委員として知られた。その理由は、中南海にいると、様々な幹部や長老らから頼みごとやお目こぼしを頼まれるからということが一つ。もう一つは、「中国で最も安全な場所」と言われる中南海ですら、安全ではなかったのである。

王岐山書記は100人もの警備員を抱えながら、周囲には「オレは子供もいないし、いつ襲われても仕方ない」と呟いているという。それくらい身の危険を伴う緊張状態が続いているのである。

余談だが、もし王岐山書記の日常の世界を知りたければ、昨年10月に中央規律検査委員会とCCTVが共同制作した8回シリーズのドキュメンタリー番組『永遠に路上に』(永遠在路上)がお薦めだ。中国では平時でも常に「内戦」が起こっていることがよく分かる。