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ライフ 週刊現代

日本に「オカルトブーム」を巻き起こした男の壮絶な人生

極限状態のなかで見出した「生」

祖父と「コックリさんの父」をダブらせて

夏、とりわけ8月になると、なぜかいつも自分のルーツを考えさせられる。敗戦記念日のせいか、それとも先祖の霊を迎える、盆という行事のせいであろうか。

私は、私の父方の家系において、久しぶりの「内地(日本)」生まれとなった。曽祖父の代に満鉄創成期の社員として満洲に渡り、祖父、父と二代にわたり大陸で生まれているからだ。

 

家系の業を一身に背負ったのは祖父で中国語が堪能だった彼は長じて特務機関員となり、内蒙工作(内蒙古地区に親日政権をつくり阿片の生産をした)などに関わった。大陸での日々を忘れられずに祖父は長い戦後を生きたが、最後まで日本には居場所を見出せないままに逝った。

発売されたばかりの『コックリさんの父 中岡俊哉のオカルト人生』を読み、本書で紹介される中岡もまた、大陸での強烈な体験にからめ取られて一生を終えた人、との印象を私は抱いた。

本書を紹介する前に、まず断っておきたいのだが、私自身は超常現象や怪異、スピリチュアルといったものを信じないし、そういったものを肯定して語る風潮にも違和感を覚えている。

コックリさんの父

では、そんな私がなぜ、この本を面白く読んだのかといえば、それは本書が超常現象そのものを取り上げたものではなく、かつて一世を風靡し、日本に「オカルトブーム」を定着させた中岡俊哉という人物の内面に迫るものだったからだ。

中岡はテレビや著作を通じて、怪談や心霊写真、スプーン曲げ、UFOなどを世の中に広めていった。多くのテレビ番組に企画から携わり、著作は二百冊以上。なかには『狐狗狸さんの秘密』、『恐怖の心霊写真集』、『ピラミッド・パワー』といった大ベストセラーも含まれ、社会現象といっていいムーブメントを巻き起こしもした。

さぞかし儲けたことだろうと勘繰る人もいるかもしれないが、彼は私財を「研究」につぎ込む。身銭を切って興味を抱いた現象や人物を追いかけ、自宅を担保に入れてまで国際会議を開く。一方で科学者やメディアからは、激しくバッシングされ続けた。それでも、彼は家庭を顧みず、健康をも犠牲にして、猛烈に邁進し続けるのである。

満洲での壮絶な経験

なぜ、そこまでしたのか。理由は彼の前半生に求められる。

妾腹であることから差別を受け、日本を飛び出し満洲へ。工場に勤務し目にしたのは中国人工員を日本人が虐待する日常だった。それが敗戦により反転。中国人による報復が始まり、阿鼻叫喚の地獄絵となる。

中国人の友に救い出された中岡は、生き延びるため中国共産党の八路軍に入り、国民党との激戦で死にかけ、臨死体験をする。これが「オカルト研究者」となる原点なのだった。

彼は帰国後も中国で体験した極限状態から解放されず、生死の狭間を見つめ続けずにはいられなかったのだろうか。あるいは、彼に「戦後」はなく、永遠に戦いつづけることでしか生を実感できなかったのか。