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赤ちゃんに障害が見つかったある家族の決断【ルポ・出生前診断】

すべてを正直に、話します
NHKスペシャル取材班,野村 優夫

親たちの葛藤

これからどうすればいいのか。4日後、宮澤さん夫婦は、家族全員でクリニックを再び訪れ、夫医師や看護師と話し合いを持つことにしました。

すでに妊娠6ヵ月。「決断」のための時間は、1週間しか残されていませんでした。そのときの話し合いの様子も、記録用カメラに収められています。

あきらめたほうがいいのではないか――。拓也さんの父親の寛行さんが切り出しました。

「我々もこれから、歳をとっていく。この先いつまでお手伝いできるか……。これまで直ちゃんのお母さんにパワーがあって、やってきたけど、今度この直ちゃんが、自分にも障害があって、お母さんと同じことができるのか」

拓也さんの母親の洋子さんは、まず直子さんに「赤ちゃんに障害があるのは直子さんの責任ではない」と伝えました。ただ、この赤ちゃんが、将来、自分が生まれてきたことをどう考えるだろうかということが気がかりでした。

直子さんは立派に育ってくれているけれど、この赤ちゃんも成長したとき「自分は生まれてきて良かった」と思ってくれるだろうか。そんな子どもになるように、自分たちは育てることができるだろうか。

「産んだらいいじゃない」と言えたらいいのかもしれないけれど、それは責任のある言葉だ。そう考えると、「産んで」と簡単にはどうしても言えなかったといいます。

拓也さんも直子さんも、黙って聞いていました。

夫医師はこのとき、夫婦の意見を置き去りにして話が進んでいくことを心配していました。そこで、あえてこんな言葉を投げかけてみました。

「このお腹の赤ちゃん、決して馬鹿にしたもんじゃないと思います。育っていったら、この赤ちゃんがお母さんを支えていけるのではないかと」

それに対して答えたのは、直子さんの母親の加代子さんでした。

「今、先生が話してくれたのは心に響くしね、その通りだけど、今、話を聞いていても、そういうふうにしようという勇気がない。そういうふうにしたいという気持ちもあるんやで。そのほうがええもん。ほんまに。この子に子どもができるって、楽しみにしてきたしね。でも、どうしても、そういう勇気が持てない……」

ずっと直子さんに寄り添い、そばで支えてきた加代子さん。直子さんの苦労をいちばん身にしみてわかっています。

皆と同じように運動ができずに、体育の時間は多くが見学でした。小学校の運動会の組み体操では、演技に加われず、一人皆の前で、合図の笛を吹きました。

排便のコントロールの訓練も大変でした。なかなか排便がうまくいかずに、トイレに一晩中一緒に籠もったこともありました。障害のことで、いじめにあったこともありました。

それでも、直子さんは加代子さんには言いませんでした。心配させまいとする子どもながらの気遣いに、加代子さんは心を痛めました。

直子さんが中学生のとき、加代子さんは夫を亡くしました。以来、女手一つで直子さんを育ててきました。

わざと厳しく接しようと、歩行訓練のためのリハビリ施設にも小学生のときから一人で行き来させました。強くなってもらいたかった。それに応えてくれた娘です。誇りはあります。心底、この子が生まれてきてくれて良かったと思っています。

もし、同じ障害のある孫をあきらめるという選択をしたら、自分の娘を否定することにもなるのかもしれない。

でも、健常な自分ですら、直子さんを支えるのは本当に大変なことだった。障害のある直子さんに、同じことができるのか。苦労する子どもを見守る母親のつらさを娘にもさせていいのか。

葛藤の中で、絞り出すように出した言葉でした。

直子さんは何も言えず、ため息ばかりついていました。「あきらめるしかない」そう言われるたびに、直子さんは、追い詰められていました。直子さんは、あのときの気持ちをこう振り返ります。

「本当に……、お腹の子と一緒に死にたいと思ったし、本当に申し訳ないと思った。死にたいと思っているような母親にこの子が宿ったと思うと申し訳なかったし、主人にも、むこうのお父さんとお母さんにも申し訳ないと思っていました」