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赤ちゃんに障害が見つかったある家族の決断【ルポ・出生前診断】

すべてを正直に、話します
NHKスペシャル取材班,野村 優夫

「厳しい結果」を前にして

妊娠6ヵ月に入った9月下旬。夫婦は、大阪の夫律子医師のクリニックで検査を受けました。

二分脊椎症が遺伝するかどうか、医学的にはっきりとはわかっていません。妊婦健診では異常は見つかっておらず、夫婦は、赤ちゃんに病気や障害はないだろうと考えていました。

検査からしばらくして、二人は夫医師に呼ばれました。このクリニックの診察室の天井には、医療行為を常時記録するためのカメラが設置されています。万が一、医療上の伝達ミスがあったときに原因を探ったり、妊婦への説明が適切だったかどうか定期的にチェックしたりするために使っています。

今回、私たちは、宮澤さんご家族とクリニックの承諾を得て、診察室でどんな説明が行われたのか、記録された映像を見せていただきました。

やや緊張した面持ちで椅子に座る宮澤さん夫妻。そこに夫医師が入ってきます。超音波装置で撮った映像をモニターに映し出し、それを見ながら、夫医師は落ち着いたトーンで夫婦に語り始めました。

「体重は306グラムです。平均よりやや下ですが、すくすく育っています。頭の周囲の長さも普通です。鼻やあごもよく発達しています。腎臓も左右そろっていて、心臓もきれいです。血流の逆流もありません」

チェックした項目について、数字や画像を指で示しながら、一つ一つ説明していきます。一通り説明が終わったあと、夫医師は改めて夫婦のほうに向き直り、ゆっくりとした口調でこう告げました。

「背中ですが、二分脊椎症があります。普通はここが閉じていて神経が中に入っているんですが、骨の一番下、ここにこぶがあります。骨が欠けて神経が外に出ています」

お腹の中の赤ちゃんの超音波検査の写真には、脊柱の下のほうに2つに分かれた部分とこぶがくっきり写っていました。それまで、相槌を打っていた直子さんの声が止まります。

「症状はママよりも軽いです。こぶが上にあればあるほど、症状は強くなってきます。赤ちゃんは、かなり下のほう。この時期でも、症状が重い子どもは、かかとが内に曲がったり、かかとが固くなったりしているんですが、それも見られません。ママよりは障害は少ないと思います」

息を飲んで説明を聞いていた二人。ようやく絞り出すような声で、直子さんが尋ねます。

「……もう、確実?」

直子さんの目から涙があふれ出しました。夫医師が、そっとティッシュの箱を差し出します。拓也さんは、直子さんの背中に手をまわし、大きくゆっくりとさすっています。夫医師が声をかけました。

「あなたもこれまで育ってきた過程でいろいろあったと思うし、あなたのお母さんもいろいろ経験されて、つらいこともあったかもしれないけど、でもこうやって育ってきて、結婚もして、子どももできて。ここまでこられたのは、お母さんも誇りに思うでしょう」

「しかも、あなたが生きてきた時代とは状況が変わっているのよ。小児専門の外科もできて、手術の技術も進歩している。大阪には全国的にも優秀な医者がたくさんいるし。ショックだと思うし、まさかと思ったと思うけど、きちんと考えていってあげないといけませんよね。赤ちゃんに対してもね」

夫医師の話が終わっても、直子さんは立ち上がることができないでいました。落ち着くまで、夫婦はしばらく診察室に残ることになりました。二人きりになると、直子さんは、拓也さんの胸に崩れ落ち、号泣しました。

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そのときのことを、直子さんはこう振り返ります。

「せめて孫だけでもね、健康な子をね、見せてあげたいというのがあったから、本当に申し訳ないと思っていました、主人の両親に。自分の親にも、娘が病気なうえに、孫まで病気かって……。背負わす、ではないけど、本当にみんなに申し訳ないと思っていました」

拓也さんは、何も言わず、30分間、ただ直子さんの背中をさすり続けていました。